ベスト盤(13年)と同盤収録の新曲2曲のシングル発売(13~14年)を挟みつつ、前作『ストレンジランド』以来実に約7年にも
及んでいたディスコグラフィ上の「空白」にいよいよ終止符を打つ5thアルバム。復活を告げた先行シングル“ザ・ウェイ・アイ・フィール”ではアッパーな加速感を響かせていたが、今作での基本トーンはむしろ、物憂げな心象風景を壮大なコーラス・ワーク渦巻く多幸感で刷新してみせる冒頭の“ユア・ノット・ホーム”や、日常風景の濁りも淀みもすべて濾過し尽くすような神聖な響きに満ちた“ストレンジ・ルーム”、時代を闊歩する壮麗なまでのミディアム・ポップ・マーチ“フェージズ”といった楽曲群にこそ象徴されるものだ。
トムのドラッグへの傾倒やソロ・アルバム制作などによる休止を経て、同じ道を歩み始めたトム/ティム/リチャード/ジェシーの4人。アンサンブルの構成要素がドラスティックに変わったわけでは決してないが、再びキーンとして音を奏で始めた彼らの鳴らす楽曲は、聴く者を誰ひとり疎外することない包容力のみならず、その歌と音のすべてが人間の宿命と未来をまっすぐに指し示すかの如き荘厳さすら漂わせているのが印象的だ。アレンジやミックスそのものの明るさや鮮やかさによってサウンドの輝度を確保するのではなく、それこそ1st『ホープス・アンド・フィアーズ』を彷彿とさせるような真摯で誠実な旋律を、それ自体が輝き出すまで丹念に研ぎ澄ませ磨き上げた果ての音楽の宝石│とでも呼びたいくらいのマジカルな楽曲が、今作には凝縮されている。そしてそれによって、キーンの音楽が根源的に持っているスケール感がより明確に浮かび上がってくる。最終曲“アイ・ニード・ユア・ラヴ”まで、高純度の福音に包まれるような1枚。 (高橋智樹)
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