良い音で楽しむ極悪サウンド

モーターヘッド『1979 デラックス・コレクターズ・ボックス・セット』
発売中
BOX SET

表題が示す通り、1979年に登場した『オーヴァーキル』と『ボマー』のリリース40周年を記念しての豪華ボックス・セット。たっぷりと詰め込まれた未発表ライブ音源やアウトテイク、ブックレットや復刻版ツアー・プログラムといったオマケの数々にもそそられるが、やはり何よりもこのふたつの傑作のカッコよさに、惚れ直させられる。

リアルタイムでこれらの作品に出合った少年期には、荒々しさにばかり気を取られ、他のどんな音楽よりも極端に激しいものを好んで聴いているという密かな自尊心に酔っていたものだ。が、ロックの細分化とエクストリーム化が止まらずにきた時代を経て、今、改めて感じさせられるのは、こんなにプリミティブでクールなロックンロールはこの40年、他に生まれていなかったのではないか、ということ。しかも当時の彼らは、メロディや和音とは無縁な騒がしいだけのバンドの代名詞だったはずなのに、実はめちゃくちゃ味わい深い。もちろん今までそこに気付かずにきたわけではないが、こうして解析的スタンスで改めて向き合ってみると、「わあ、この曲のここで、こんな演奏してたっけ?」と気付かされる部分もあちこちにある。

ボックス・セットに含まれているこの2作の重量版LPは、オリジナル・マスターから改めてハーフ・スピードでマスタリングされた音源によるもの。かつて、良い音響で聴く意味がないなどと評されてきたこのバンドのサウンドと息遣いを、より生々しくリアルに体感することができる。実のところ、本稿のために筆者が試聴したのはそれが圧縮されたデータ音源にすぎないのだが、今頃は然るべき状態で聴きながら悶絶しているに違いない。これぞモーターヘッド、彼らはロックンロールで震えさせてくれる。 (増田勇一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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『rockin'on』2019年12月号