これが最新最高のラディカル

ビリー・アイリッシュ『everything i wanted』
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SINGLE
ビリー・アイリッシュ everything i wanted

90年代以降、最先鋭の音楽を時代と最も摩擦を起こし最も受け入れられやすい形へと整える手法を採ったのがレディオヘッドやNINといった音楽家達。2010年代に入ると、ジェイムス・ブレイクボン・イヴェールという過去~現在における明確な参照点が示されないミュータントとしての大衆音楽を創造する鬼っ子がシーンに地震を起こした。そして現在、ビリー・アイリッシュ。彼女はそのどちらの軌跡にも連なっていそうでいて、確かに異なっている印象だ。曲の中で先進的感性と温故知新のポップとがそれぞれバラバラに主張をしながら、分け隔てなく混在しているのである。なぜそうなるのか、その理由がこの8ヶ月ぶりの新曲から垣間見える。《欲しいもの全てを手に入れた夢を見た。でも目を覚ますと見えるのはあなたと私》。つまり、社会現象と化した夢(あるいは悪夢)のような現状の中で、唯一実存を感じることができる存在が、自らと「もうひとりの自分」である兄のフィニアスだったのだ。唯一の共同制作者である兄とはいえ、彼女にとってそこまで大きな存在であったとは。もしこの兄妹がレノン/マッカやジャガー/リチャーズのようにはっきり異なる個性を持った作曲チームだったら、きっとビリーの音楽は今のような形にはならない。むしろ双方が極めて類似した前衛性と大衆性を備えているからこそ、それらが混ざり合うことで全てがわずかに従来の形式から軌道を逸らした奇跡的な在り方に着地しているのだ。しかし、《あなたは言う。私がここにいる限り誰もあなたを傷つけることはできないと》というラインの美しさと危うさと悲しさたるや。兄妹という不確かな繋がりを頼りに、いつまで「私」はここにいられるのだろう。いられなくなったとき、どんな傷を負うのだろうか。(長瀬昇)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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ビリー・アイリッシュ everything i wanted - 『rockin'on』2020年1月号『rockin'on』2020年1月号
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