アーティスト

    恐ろしくも美しい彼岸の境地

    ブリアル『チューンズ 2011-2019』
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    ALBUM
    ブリアル チューンズ 2011-2019

    2000年代以降のヨーロッパのエレクトロニック・ミュージック・シーンでもっとも大きな影響力をもったひとりがブリアルだろう。「Hyperdub」のアルバム第1弾となった『ブリアル』(2006)、そして『アントゥルー』(2007)という2枚のアルバムに提示された美しく優雅で凶暴なダブステップ音響は、トム・ヨークを始め各所に大きな衝撃を与えたが、その後彼は1枚のアルバムも発表していない。その代わりEPやシングルという形で数多くのトラックをリリースし続けている。これは2011年以降に彼が「Hyperdub」に残した音源の集大成となる編集盤である。

    17曲を、ほぼ年代を逆に辿る形で収録している。現在の彼が辿り着いた地点から過去に遡っていくことで、この希代のトラックメイカーがいかに凄まじいほどの高みに達しているかがよくわかる。ダブステップ、UKガラージからダウンテンポ〜ダーク・アンビエント〜ドローン音響への変遷がそれだ。

    ダブステップから発し、ダンス・ミュージックという制約の中で新しい表現を模索しながらも、2013年、つまりディスク1の終わりぐらいから、ビートのくびきを逃れ、メロディアスでアブストラクトな電子音響へと進化/深化していくあたりが本作の白眉だ。女性ボーカルをフィーチャーしてエモーショナルな物語を奏でる名曲“カム・ダウン・トゥ・アス”を経て、最新曲“ステイト・フォレスト”の、深い海の底をゆったりと漂うような、薄暗い森の奥に分け入っていくようなディープなアンビエント音響のなんという美しさ。まるで彼岸に達したかのような幽玄の境地はあまりに淡く儚く恐ろしい。

    この先にある領域などまるで想像もできない。だが、ブリアルはこれからも進化/深化し続けるはずだ。(小野島大)



    詳細はBEATINKの公式サイトよりご確認ください。

    ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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    ブリアル チューンズ 2011-2019 - 『rockin'on』2020年2月号『rockin'on』2020年2月号
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