異次元に光る「今」のリアル

トム・ミッシュ & ユセフ・デイズ『WHAT KINDA MUSIC』
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ALBUM
トム・ミッシュ & ユセフ・デイズ WHAT KINDA MUSIC

3月にリリースされた2014年の自主制作ミックステープ+αのCD化盤『ビート・テープ1』の、当時19歳とは思えない精緻で成熟したクリエイティビティに改めて驚きと畏怖を禁じ得なかった。さらに、そのリリースに先駆けて「Quarantine Sessions(隔離セッション)」と題してYouTubeで公開されたニルヴァーナ“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”のカバー動画――ストラト1本とルーパーだけで豊潤かつ妖艶な新解釈を加えてみせる姿は、ギターを軸に音楽の在り方を再定義するトム・ミッシュの「今」をリアルに立ち昇らせるものだった。

デビュー作『ジオグラフィー』以来約2年ぶりのアルバムとなる今作は、かのジャイルス・ピーターソンも魅了する新鋭ジャズ・ユニット=ユセフ・カマールのドラマー=ユセフ・デイズとのコラボレーションによって生まれた1枚。それこそグライムやダブステップといったエレクトロ・ミュージックならではのビート感を、生身の絶妙のタイム感で繰り出すユセフのリズムワークは同時に、人間と非人間の垣根の「不気味の谷」に生演奏とエレクトロの両側から迫るような凄味をも備えている。そして、前作『ジオグラフィー』ではソウル寄りの陽性な空気感とともに鳴り響いていたトムの音楽世界が、今作では聴く者の内面に心地好く潜行するかの如きドリーミーな質感をもって、脳裏と感情に抗い難く浸透してくるのが印象的だ。《はっきりさせてもいいか?/見るものなんてないここでは/悪魔たちが行き来している(訳詞)》という不穏な心象風景を、デッドなリズム・サウンドと幽玄なるアンビエンスとのコントラストに重ね合わせてみせた表題曲“What Kinda Music”。緻密なプログラミングかと思うようなパターンを、どんな高性能なグルーヴ・クオンタイズも手の届かないリズムさばきで具現化するユセフのビートの中から、トムの歌と楽曲の持つファンタジックな浮遊感がくっきりと浮かび上がる“Festival”。波のように寄せては返すソウルの鼓動に呪術的なまでのミステリアスな高揚感を与える“Lift Off (feat Rocco Palladino)”……。ギタリストのみならずマルチプレイヤー/コンポーザー/プロデューサーとして音楽の深化を極め続けるトム。ジャズ/ソウル/ヒップホップなどのビートの肉体性をエクスペリメンタルに体現するユセフ。同じサウスロンドン出身ながら、異なる音楽の軌道を描いてきたふたりの化学変化の結晶たる今作が、ジャズ名門レーベル=ブルーノートからリリースされるのも、実に粋で痛快な話だ。(高橋智樹)



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トム・ミッシュ & ユセフ・デイズ WHAT KINDA MUSIC - 『rockin'on』2020年5月号『rockin'on』2020年5月号
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