止まらない解放のプロセス

パフューム・ジーニアス『セット・マイ・ハート・オン・ファイア・イミディエイトリー』
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ALBUM
パフューム・ジーニアス セット・マイ・ハート・オン・ファイア・イミディエイトリー

悲劇的な少年期をローファイなララバイに仕立てて歌っていたフラジャイルなゲイ青年が、サード・アルバム『トゥー・ブライト』に至るとピン・ヒールで偏見を踏みにじり、前作『ノー・シェイプ』では翼を手に入れたかのような軽やかさで、地上を見下ろす……。作品を重ねるごとにどんどん自分を解放しているパフューム・ジーニアスことマイク・ハドレアス。そのプロセスはデビュー10年の節目に登場する5枚目でも続いており、自分の欲望にとことん正直になった本作のモードは、“ハートに火をつけて”と要求するタイトルが物語っている。しかも“今すぐに!”と。

彼がさらなる自由を手に入れるきっかけとなったのは、音楽を提供し、ダンサーとして出演もしたバレエ作品『The Sun Still Burns Here』。踊ることを介して自分の肉体とのコネクションを実感して、身体、ラブ、セックス、記憶といったテーマに導かれたといい、他者とつながりたいという願望や、肌に刻まれた記憶をなぞるようなノスタルジアを、スナップショットの連続にも似た言葉に刻んだ。

身体とハートの導管としての声の使い方も、かつてなくフレキシブルで、妖しい低音、ファルセット、或いは言葉にならないウィスパーを、やはり変幻自在のアレンジメントで縁取っているのだが、興味深いのは、ドゥーワップやソウルやカントリーといったスタイルを引用した点だ。というのもこれまでの彼は、アウトサイダーである自分を拒絶したキリスト教会の音楽を独自に解釈することで、ある種反抗的な意思表示をしていた。同様に、曲ごとにクラシカルに、グランジーに、アメリカ音楽の古典様式を美しく歪めた本作にも、「これは僕が受け継ぐ伝統でもある」という主張を読み取らずにいられない。 (新谷洋子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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パフューム・ジーニアス セット・マイ・ハート・オン・ファイア・イミディエイトリー - 『rockin'on』2020年6月号『rockin'on』2020年6月号
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