バランスとクールネスをそなえた強さ/鋭さ

ラン・ザ・ジュエルズ『RTJ 4』
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ALBUM
ラン・ザ・ジュエルズ RTJ 4

間違いなく2020年を代表する作品のひとつとなるだろう。現在、全米を激震させているBLMの事態を受け、予定より早くリリース。6曲目は、6年前に起きた別の警官による黒人殺害事件を受けて書かれたものだが、《I Can't Breathe》という言葉がリリックに出てくるなど、そのまま現状を描いたような内容が随所に登場し、たちまち大反響を呼び起こした。そうしたこともあってか、彼らの作品では初めて全米トップ10にランクインしている。

これまでも、ヒップホップとロック両方の人脈からバランスよくゲストを呼んできていたが、今回も4曲目の共同プロデューサーがブーツとデイヴ・シーテックだったりするなど、基本スタンスは変わらない。7曲目はファレルとザック・デ・ラ・ロッチャが参加。ザックの参加はこれで3作連続となり、ほとんど隠遁している彼を世間と繋ぎ止めてきたのがRTJだったと言える。来年に延期されてしまったものの、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの復活ツアーにも帯同する予定だ。

前半から中盤にかけて不穏なムードを撒き散らしながらメリハリの効いたトラックをブチかました後、先ごろ亡くなったアンディ・ギルを追悼するかのようにギャング・オブ・フォー“エーテル”のギター・リフとメロディカをサンプリングした9曲目から、メイヴィス・ステイプルズとジョシュ・オム(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ)が参加した10曲目を経て突入する最終曲まで、終盤のドープな展開にのみ込まれていく。2部構成をとったラスト・トラックは、テナー・サックス(吹いているのはダップ・キングスのCochemea Gastelum)とバイオリンもフィーチャーし、ジャズの要素に加え、どこかデヴィッド・クローネンバーグ監督作品サントラに通じるような空気も感じた。そのままアルバムが終わったら荒涼とした聴後感になったと思うが、“テーマ・ミュージック”と題されたリプリーズ(?)が入って、少し気持ちをリフレッシュさせるエンディング。

エル・Pの作るサウンドは、インダストリアル直系の先鋭性とフックの効いたキャッチーさを自然に併せ持ち、ラップも辛辣な言葉を並べ立てながら、ひたすら暴動を煽るようなものとは一線を画す。実際、キラー・マイクは「抗議運動が暴走して破壊や掠奪行為に走らないように努めよう」と呼びかける演説で称賛されたばかりだ。ニューヨークとアトランタの個性派が組んだことで、言葉、サウンド、様々な面で一義的にならないしなやかさを持ちながら、誰よりも強く尖っている。 (鈴木喜之)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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ラン・ザ・ジュエルズ RTJ 4 - rockin'on 2020年8月号rockin'on 2020年8月号
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