突然の発表でびっくりした人も多いと思うけど、本作は、17年のヒット曲“1-800-273-8255”などでおなじみのラッパー、ロジックの「引退作」である。ヒップホップの世界から身を引く決意をした理由は、本人いわく「生まれたばかりの息子と過ごす時間を優先したいから」だとのこと。今後は、Twitchと独占契約を結んだゲーム実況の仕事をしばらくメインにこなしていくのだという。
そんなわけで、通算6作目にしてまさかの「ラスト・アルバム」となった本作だが、内容の方はというと、決して湿っぽくはなってない。むしろ、その逆で、言いたいことは全部言い切ってやるぜ!という熱い思いが全15曲にみなぎっている。
14年のメジャー・デビュー盤『Under Pressure』でも組んでいたNo I.D.らが繰り出す、ちょっとオールドスクールなビートに心地好く乗っかり、ここでのロジックは自らのライフストーリーを改めて綴っていく。メリーランド州の貧困地帯で、ドラッグ中毒の父とアルコール中毒の母のもとで生まれ育った子供時代の思い出。ヒップホップとの出会いによって救われた青春と、カニエやア・トライブ・
コールド・クエスト、アウトキャストやJ.コールなどなど、尊敬する先輩ラッパーたちへのラブ・レター的な感謝の思い。そして、『メタルギアソリッド』から『カウボーイビバップ』まで、最新ゲームやJアニメにまつわるオタク丸出しなポップ・カルチャー・ネタ⋮⋮一部のコアなヒップホップ・ファンからは「ストリート感なさすぎ!」とバカにされることも多かったけど、最後の最後まで「自分らしく」マジメに突っ走り切ったところが実にこの人らしい、渾身のグランド・フィナーレ作である。何はともあれ、本当におつかれさまでした。 (内瀬戸久司)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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