ロボットが差し伸べた美しい手

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー『マジック・ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー』
発売中
ALBUM
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー マジック・ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー

前作『エイジ・オブ』が多くの意味で野心作だっただけにサントラやコラボはともかくOPN名義のアルバムはしばらくおあずけ?と予想していたが、NYCがコロナでロックダウンしていた間にこうして1枚作ってしまったのだから驚きだ。その好調ぶり以上に驚きなのは、ある意味、キラキラした音の本作は聴き手を楽しませることを躊躇していない点だ。

間違っても彼自身が高踏派だという意味ではない。ただ、情報密度が高くカルチャーの幅も広い音楽を作る人だけに様々な切り口や試論が可能なので、バベルの図書館(あるいはウサギの穴?)を思わせるジャケット同様、いくらでも深読みし哲学したくなってしまうファンは多い。OPNもたぶんその多彩な反応は歓迎しているのだが、今作は「架空のラジオ放送の朝から晩まで」という明快で普遍的な枠組みがあるぶん思考武装せずに実にチューン・インしやすい。かき混ぜられすり切れたサンプリングやループの断片、ミュージック・コンクレート、ポップな歌、アンビエントのモアレ、ノイズ……と高低を推移する音楽性も、運転中に聴くラジオから家で耳にしたラジオまで色々な状況でチャンネルが切り替わるノリでカラフルだ。楽曲が切れ目なく続く1トラック=47分強の構成になっているので曲単位のつまみ食いはしにくいが、トーク他の「幕間」を効果的にあしらいつつ全体を繋げているのは見事。これはユーザー・フレンドリーなミックステープと考えてもいいかもしれない。

切れ目のない構成は『アール・プラス・セヴン』の一部で既にやっていたし、本作中盤を飾るメロディックでエモいボーカル曲も『エイジ・オブ』前後で増えてきていた。シンセの壮麗な波動から立体的な音作り、精緻に刻まれた音符の乱反射、意外なサウンドの摩擦が生み出すいびつなハーモニーまで音の魔術師の持ち技もほぼ網羅されている。ゆえにこの10年近くの集大成とも言えるが、それらをオブセッシブなまでに整理した音の真空間にフリーズするのではなく――それはそれで耳には最高であり、『エイジ・オブ』では効いていた――時にモダンR&Bを手本にしたビートで和らげ、時にポップなヴァース/コーラス/ヴァースのパターンを踏まえて聴き手にクッションを与えるのは気遣いに他ならない。ボコーダーを通したダニエルの歌声は相変わらずロボットのように響くが、そんな彼も他者との結びつきが薄まる一方のこの特異状況を受け、積極的に聴き手を迎え入れるモードになっているようだ。開いたドアに片足を突っ込んでみて欲しい。そこから広がる音のプリズムは深い。(坂本麻里子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー マジック・ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー - 『rockin'on』2020年12月号『rockin'on』2020年12月号
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