25周年10作目の実り、またも野心作にして傑作!

フー・ファイターズ『メディスン・アット・ミッドナイト』
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フー・ファイターズ メディスン・アット・ミッドナイト

前作『コンクリート・アンド・ゴールド』では、シーアアデルを手がけたポップ畑のプロデューサーであるグレッグ・カースティンを起用し、音楽性の拡大にググッと踏み込んでみせたフー・ファイターズ。続く本作でも、引き続きカースティンを再登板させ、その路線を基本的に踏襲している。ただし今回は、すでに気心の知れた仲間となったカースティンを加え、もっと楽しくワイワイと、あまり気張って根を詰めすぎずに作り上げたようなイメージが伝わってくる内容だ。前作では、3人の娘の父親という立場を意識して曲を書いたとデイヴ・グロールが語っていたことからも分かる通り、トランプ大統領の就任で激しくなるアメリカ社会の混乱や、地球規模の気候問題などを背景に、ヘヴィでシリアスなトーンが感じられたのに比べ、より明るくアッパーなサウンドがアルバム全体を覆っている。この4年でいっそう厳しさを増した状況下、不安や閉塞感で疲弊した人々の心を少しばかり上向きに、足元を軽やかに、そういう役割を果たしてくれそうな音楽だ。内省的な感触の先行シングル“シェイム・シェイム”も、トータルな流れの中で聴くと響き方が変わってくると思う。

デイヴが天才と激賞するカースティンのアレンジ能力は、今回もバッキング・ボーカルやストリングス・セクションなどで存分に発揮され、これまでのフー・ファイターズとはひと味違う新鮮さを確実にもたらしている。コーラス隊には、カースティンとともにザ・バード&ザ・ビーをやっているイナラ・ジョージ(ローウェル・ジョージの娘)を中心に、バーバラ・グルスカ(ベル・ブリゲイド)、サマンサ・シドリー、ローラ・メイスに加え、デイヴの愛娘ヴァイオレット・グロールも参加。なおサマンサは昨年、パートナーでもあるバーバラ(※どちらも女性)のプロデュースで、イナラのレーベルから発表したソロ・デビュー・アルバム『インテリア・パーソン』が話題になったシンガーだ。一般的に、コーラスやストリングスといった装飾的な要素が加えられると、音楽面では重厚な作風になっていく傾向があると思うが、1曲目“メイキング・ア・ファイア”を聴いたらすぐ分かる通り、本作のバック・ボーカルは軽快かつパンチが効いたものになっており、作品全体のムードをアップリフトしている。それはまた、“シェイム・シェイム”でピチカートを効果的に使っているストリングスや、3曲目“クラウドスポッター”とか7曲目“ホールディング・ポイズン”でフィーチャーされたカウベルなどのグルーヴを強化するパーカッションに関しても同様だ。

本作でパーカッション奏者としてクレジットされているのは、フュージョンというジャンルを代表する偉大なバンド=ウェザー・リポートでドラマーを務めていたオマー・ハキム。名うてのセッション・ミュージシャンでもある彼は、スティングの『ブルー・タートルの夢』やダイアー・ストレイツの『ブラザーズ・イン・アームス』といった大ヒット・アルバムでもプレイしており、シックのナイル・ロジャースとの関係性も深い。デイヴが本作について語る際、ハキムも参加していたデヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』を引き合いに出しているのは、まず先に『レッツ・ダンス』のイメージが浮かんで親交のある(※デイヴは50歳のバースデイ・パーティにハキムを呼び、いっしょにボウリングをやったりしたらしい)ハキムを呼んだのか、逆にハキムが来てから『レッツ・ダンス』を連想したのか、前後関係はまだ分からない。ただ、旧来のロックが古臭く感じられ始め、マイケル・ジャクソンマドンナなどのキラキラしたポップ・ミュージックが全盛となった80年代に、ボウイが(少なからず批判を浴びながらも)トレンドを見据えて作った大ヒット・アルバムが、デイヴの心にあったという事実は興味深い――そんなことを考えていたら、本作におけるキレのいいドラムとギターの音は、80年代ロックのクリアな音像を21世紀にアップデートしたもののようにも聞こえてきた。ちなみに今回のミキシングは、マドンナの作品を昔から手がけてきたマーク・スパイク・ステントが担当している。

やはりデイヴ・グロールという男は、自分たちが愛してきたロック・ミュージックを、今この世界にどう鳴らすべきなのか?という課題について、外野が安易に想像するレベルを超える深さで考え抜いているのだろう。『メディスン・アット・ミッドナイト』は、その果敢なチャレンジに、古いつきあいの仲間と新しく迎えた仲間で築き上げたファミリー的な空間から、スポンテニアスな衝動を元に対応して、大きな成果を掴みとってみせた快作だ。(鈴木喜之)



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フー・ファイターズ メディスン・アット・ミッドナイト - 『rockin'on』2021年2月号『rockin'on』2021年2月号
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