3rdアルバム『盗作』のリリースから約半年、春をテーマにした5曲入りのEPがリリースされた。アップテンポなリズムが不気味さを滲ませ、『盗作』で描いた物語がありふれた日常にすっと入り込み、自分と他者と社会の決定的な分断を突きつけるような“強盗と花束”。suisの情感豊かで澄んだ歌と軽やかなトラックがはらはらと花が舞う描写と見事にマッチしたCMソング“春泥棒”。真ん中に据えられたインスト曲“創作”。社会の悲哀と切実さを淡々と滲ませる『NEWS23』のエンディングテーマ“風を食む”。アニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』のエンドソングであり、ひたひたと孤独と悲しみが押し寄せてくるような“嘘月”──。それぞれに独立した物語とチャレンジングなサウンドメイクが詰まっている。今作のコンセプトは「CDのないCD」。Type AとType Bの2形態で発売され、Type BはAとパッケージがまったく一緒でCDが入っていない仕様となる。ストリーミング時代において、形のない音楽という作品の存在意義を鋭く突きつけるヨルシカの挑戦は終わらない。（小松香里）

『ROCKIN'ON JAPAN』3月号より