身も心も解放される至上の楽園

ペット・ショップ・ボーイズ『ディスカヴァリー:ライヴ・イン・リオ 1994』
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ALBUM
ペット・ショップ・ボーイズ ディスカヴァリー:ライヴ・イン・リオ 1994

タイトル通り、アルバム『ディスカヴァリー』のツアー、1994年12月のリオ・デ・ジャネイロ(ブラジル)でのライブ映像。過去に一度映像化されているが、2CD+DVDの3枚組での再発だ。

この時代のビデオ撮影なので、画質には限界がある。ブルーレイが出ないのもそういう理由だろう。だが内容は最高だ。ほとんど四半世紀ぶりに観たが、何度観ても本当に最高だ。

観客の反応が世界一熱狂的なことで知られるブラジルでは、クイーンを初めさまざまなアーティストの名ライブ映像が残されているが、本作も例外ではない。コンサート冒頭から常軌を逸した勢いで踊り狂う観客。それに乗せられるようにぐいぐい高まっていくショウ。あくまでもPSBらしくクールでスタイリッシュなパフォーマンスと華やかな照明、素晴らしくワイセツな演出。半裸の男女ダンサーたちが身をくねらせ、局部だけを隠した逞しい男がねっとりとした視線を絡みつかせる。だがそこはブラジル。淫靡だが開放的で陽性の空気が流れている。40歳の中年盛りのニール・テナントも、ギラギラしたエネルギーに溢れている。

U2で言えば『ZOO TV ツアー』のあとぐらい。ロックのショウがもっとも華やかでお金をかけた大がかりなスケールで行われていたころのステージであり、そうしたバブリーさは漂っているが、それが抗しがたいほど危険で魅力的な退廃美を醸しだしている。

人びとの肉体が触れ合い、絡み合い、体液と共に一体化する。ポップ・ミュージック史上、これほど享楽的で快楽主義に徹したライブも稀だろう。最強の生と性のアンセムだ。そして、今のパンデミック下では、もっとも実現するのが困難なライブでもある。だが、だからこそ今、この映像作品は世に出る意味があるのだ。(小野島大)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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ペット・ショップ・ボーイズ ディスカヴァリー:ライヴ・イン・リオ 1994 - 『rockin'on』2021年5月号『rockin'on』2021年5月号
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