混沌と響き合う、麗しの闘志

ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー『ゴッズ・ピー・アット・ステイトズ・エンド!』
発売中
ALBUM
ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー ゴッズ・ピー・アット・ステイトズ・エンド!

全感覚を震撼させるようなノイズをまとったオーケストレーションとドローン(持続音)が轟々と織り成す、価値観の荒野の福音の如きサウンドスケープ。幽玄なる音と音がせめぎ合い融け合いながら、あたかもひとつの運命の如く意味と物語を聴き手の中に映し出していく、至上の時間と空間――。

表現として/エンターテインメントとしての音楽の存在意義が問い直されつつあるこの困難な状況にあって、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラーが繰り広げる壮麗なる音響は、それ自体が生命力そのもののように、今この時代の悲哀や苦悶と共鳴する。

すべてが行き詰まったこの世界のあまりにも熾烈なサウンドトラックとして、あるいは押し寄せる現実に抗う真摯にして凄絶なる祈りの結晶として、GYBEの真価はひときわ目映い輝きを放っている。

前作『ルシフェリアン・タワーズ』以来約4年ぶりのアルバムとなる今作。昨年10月に地元モントリオールで制作された新作は、約20分の組曲2曲を含む計4曲。フィールド・レコーディングとインプロビゼーションを丹念に織り重ねた、ノイズの美と謎が入り乱れる今作に、GYBEは無政府主義パンクの精神をそのまま表明した背徳的なタイトルを与えた。衝突と軋轢がさらに身近な日常の通奏低音となった2020年代のドキュメントを、彼らはそのまま混沌のアンビエンスとして音像に焼きつけ、音の惑星軌道の如きスケール感へと編み上げてみせた。

そして、最もプリミティブかつ根源的で、ある種の獰猛さすら孕んだバンド表現を、ポップやロックといったスタイルやフォルムでは到達し得ない絶景へと導くに至った名盤。デビューからもうすぐ四半世紀を迎えようとするGYBEの、戦慄必至の金字塔的作品。(高橋智樹)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー ゴッズ・ピー・アット・ステイトズ・エンド! - 『rockin'on』2021年6月号『rockin'on』2021年6月号
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