ゆかしくも新しいバランス

ティーンエイジ・ファンクラブ『エンドレス・アーケイド』
発売中
ALBUM
ティーンエイジ・ファンクラブ エンドレス・アーケイド

メロディックなポップのファンにとってティーンエイジ・ファンクラブのスタジオ新作到着は毎回朗報だ。が、今作は18年にオリジナル・メンバーのひとりであるジェリー・ラヴ(B/Vo)が脱退――この3人はおじいちゃんになっても一緒に歌っていると信じていました(涙)――してから初の1枚目。

やや気を揉んでいたけれど、長年活動を共にしてきた準メンバーのデイヴ・マッゴーワン(ベル&セバスチャン他)がベースを引き継ぎ、かつてノーマンとジョニー名義でコラボしたこともある元ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキのエイロス・チャイルズがキーボードで加入とTFCファミリー色はきっちり維持されている。ゆえにラディカルな変化こそないものの、新体制のケミストリーは確実にポジティブな波紋を起こしている。

その象徴と言えるのは彼らにしては珍しい7分超えの①で、ヴェルヴェッツ直系のミニマルなロックンロール(“ホワッツ・ゴーズ・オン”等)と浮遊するギター・ソロが醸すサイケなジャムの味はTFC流クラウトロックと言える④にも響いている。サウンドやアレンジ、ハーモニーには彼らの原点であるビートルズバーズ色もなめらかにブレンドされており、多彩な作風も含め60年代のガレージ・バンドを思わせる活気とスピリットが楽しい。

ポップからカントリー、コズミックまで的を射た縁取りを添えるエイロスのセンスを筆頭に新たな血の導入で彼らも活性化したようだし、と同時に⑧⑨⑩の流れはメランコリックで健気なTFC節の真骨頂を聴かせてくれる。

3人の中でもっともロマンチックなメロディ&甘い歌声を持つジェリーの不在はたしかに切ないが、それをカバーして余りある美しい歌と真心のこもった言葉の数々が詰まったアルバムだ。10枚目の新たなスタートに最大のエールを。(坂本麻里子)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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ティーンエイジ・ファンクラブ エンドレス・アーケイド - 『rockin'on』2021年6月号『rockin'on』2021年6月号
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