今回のツアーは、各地で異なる邦人アクトのゲストを迎える予定になっている点がユニークで、まず5/20の京都公演ではトクマルシューゴ、5/21の広島ではASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文、5//22の福岡にはMO’SOME TONEBENDERの百々和宏、5/24の大阪にLITTLE CREATURESから青柳拓次、 5/25の名古屋公演に少年ナイフとDJ:伊藤英嗣(『COOKIE SCENE』)という、錚々たる顔ぶれのポップ・マエストロ達による共演が繰り広げられる。5/27の東京・渋谷での最終公演におけるゲストは未定となっているが、前夜祭企画となる『POP CITY~here comes JONNY?~』にはホフディランとカジヒデキが迎えられていた。
お馴染み“遠距離恋愛は続く”演奏中のロング・ブレイクで、ワタナベイビーが「風評被害の国・日本へようこそジョニー!《お前、その靴グレートだな》ってこのビートルズ・スニーカーの写真撮って、そのまま平気で買い物行ったからね。ノーマンさん」と語っていた今年デビュー15周年のホフディラン。そしてriddim saunter古川“TA-1”太一のドラムとの変則デュオでひたすらパンキッシュなパフォーマンスを繰り広げ、息を切らしながら「TFCは前身のザ・ボーイ・ヘアドレッサーズ時代から好きで、ゴーキーズは前にやっていたブリッジというバンドでコピーしてました!」と熱く語っていたカジヒデキ。ともに短い時間&少人数編成のステージながら、名曲連打でジョニーへとバトンを繋いでくれた。
そしていよいよノーマンとユーロスが登場。アコギを抱えたノーマンと、コルグのシンセサイザーを前に腰掛けるユーロス。ジョニーも二人だけのシンプルなセットだ。「コンバンハ!(指差して)ユーロス、デス! ボクハ、ノーマン、デス!」と満面の笑顔を見せている。ユーモラスに弾けるキーボードが響いて、オープニング・ナンバーは“ブレッド”だ。ユーロスが魅惑的なリード・ボーカルで先行し、そこにノーマンのコーラスが被さってゆく。まさかこの曲で始まるとは思わなかったが、アルバムの中ではこれと“ゴールドマイン”、あと“イングリッシュ・レディ”辺りにユーロスらしいユーモア溢れるソング・ライティングが光っていて、個人的にとても好きだ。
続いては2人でアコギを抱えて、ノーマンがMacbookからチープなビートを繰り出しながらの“ユー・ワズ・ミー”。アルバムで聴くよりも更に牧歌的な響きになっている。そしてキレの良いフックがリフレインする“ウィッチ・イズ・ウィッチ”だ。二人で意味不明のスキャットを突っ込んで勝手に盛り上がったりしている。とにかく、「曲がいい」「歌声がいい」という2点の長所のみで成立してしまっているようなステージなのである。シングル曲のオルガンR&B風“キャンディフロス”は、《Could be Mexico,could be japan》の歌詞のところで何か気の利いたことをしてくれるかな、と思ったけれど、サラッと歌っただけだった。まあ、今の状況の日本でツアーしてくれて、この歌を歌ってくれるだけでも充分に嬉しいのだが。ノーマン、演奏の前後にMac上のビートを鳴らしたり止めたりするだけで手一杯なのである。「これ、フリーのアプリだよ」と親指を立ててドヤ顔してるし。ティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクともあろう人が、一体何をしているのか。
一方のユーロスは、60年代ブリティッシュ・ビートの鬼才プロデューサーとして知られるジョー・ミークを紹介して、彼の作品である“リトル・ベイビー”をカバーしてみせる。ジョニーはカントリー風のレパートリーも多いから、こういうロカビリーでアッパーな楽曲もうまいこと嵌っていた。それにしても、ゆるいというか、もう少し練習してきた方がいいんじゃないかというか、出たとこ任せのパフォーマンスである。ステージが進むにつれ、いちいち演奏の出だしでコードを間違え躓いたりしている。「(ノーマンは)イングランドのライブでもMacの操作に四苦八苦していたんだけど、今日はまだマシだよ。うん、かなりいい方だ」などとのたまっているのだから世話ない。
それでもドリーミーなフォーク・ポップの曲調と、甘美なハーモニーが重なる“ザ・グッドナイト”や“イングリッシュ・レディ”といった素朴な詩情が溢れ出す楽曲群には、吸い込まれるように聴き入ってしまう。グラスゴー・ポップの、まったく巨人に見えない風貌の巨人たちによるステージは、何というか「凄い」とか「圧巻」といった形容を越えたレベルでの「ズルい」という印象がひたすら、喜びとともに膨らみ続けるのだ。
ノーマン:「レディース・アンド・ジェントルメン! 15年ぶりに、ユーロスがこの国に帰ってきたんだよ!」
ユーロス:「……スミマセン」
絶えずそんな笑いを含んだステージになったけれども、終盤の“ケイヴ・ダンス”は本当に素晴らしかった。延々とリフレインする美しいハーモニーとともに、ユーロスが「ギャラクシー」と評したノーマンのシンセ音のループが加えられ、混沌としたサイケ空間へとオーディエンスを誘ってしまう。本編ラストはアルバムの最終トラックと同じく“ネヴァー・アローン”。とぼけているようで、瞬く間に『ペット・サウンズ』級のクラシック感に満ちたポップの桃源郷を生み出してしまう手腕はさすがというより他にない。
「僕は今もティーンエイジ・ファンクラブっていうバンドにいて、ユーロスは前にゴーキーズ・ザイゴティック・マンキをやっていて、今はソロ・アーティストなんだけど、そんなわけだから今から、TFCとゴーキーズの曲をやるよ」。そんな感涙のアンコール。ギターと鍵盤のユニゾンが印象的なTFCの“アイ・ドント・ウォント・コントロール・オブ・ユー”では「ここですごくトリッキーなコード・チェンジが入るぞ!」と叫びながらまたもやドヤ顔のノーマン。そしてゴーキーズの“スパニッシュ・ダンス・トゥループ”では「Eマイナーだよな……Eマイナーだ」と確認しながらも捩れたポップな歌が極まってゆく。感無量である。今度はぜひ、バンド編成のステージも観てみたい。
ジョニー セット・リスト
1:Bread
2:You Was Me
3:Witch Is Witch
4:Gloria
5:Candyfloss
6:Little Baby
7:Waiting Round For You
8:The Goodnight
9:English Lady
10:Cave Dance
11:I Want To Be Around You
12:Never Alone
EN-1:I Don’t Want Control Of You
EN-2:Spanish Dance Troupe