激動の2020年も残りわずか。今頃はロッキング・オンなどの年間ベストをチェックしながら、この1年を総括する「年末恒例のお楽しみ」を満喫できる時期でもある。
とにかくコロナに苦しめられた2020年だったが、ポップ・ミュージックにとっては大充実の一年でもあった。来る2021年は果たしてどのような年になるのか? まずは来日公演の復活を全力で祈りつつ、2021年のニュー・リリースを控えるアーティスト(推測や願望も含めて)を一挙紹介!
本題に入る前に、2020年のリリースを噂されていた大本命の新作が、いくつか先送りのまま来年に持ち越しとなっている。
ケンドリック・ラマーの新作は2020年1月の時点で完成間近と噂され、「かなりロックに影響されているらしい」という話だったが、現時点でその後の動きは見えていない。2015年にブラック・ライブズ・マター運動のアンセム“Alright”を生み出したラッパーが、2020年にBLMが再燃した際には行方をくらませていた。このことは何を意味するのか? 彼はいま何を思うのか? ケンドリックの動向こそが2021年の最注目トピックと言っても過言ではない。
もう一人はドレイク。当初は2020年夏にリリース予定だったニュー・アルバム『Certified Lover Boy』が、2021年1月にリスケとなっているが、他には今夏を彩ったシングル“Laugh Now Cry Later”が収録されることしか現時点で明らかになっていない。
もっと前から焦らし続けているのはリアーナ。2020年はパーティーネクストドアの楽曲に客演したほか、自身のスキンケア・ブランド「Fenty Skin」を立ち上げ、エイサップ・ロッキーとの交際報道も注目されているが、2018年頃から噂されている『R9』(=リアーナ通算9作目)の進捗状況は謎に包まれたままだ。
コーチェラでヘッドライナーを務めるはずだったフランク・オーシャンも、実は何かしら用意していたのかもしれない。いまや誰もがパンデミックの影響から逃れられないが、テイラー・スウィフトがそうだったように、隔離生活によって多くのアーティストが創作意欲を高めているのも事実。FKAツイッグスは秋頃のインタビューで「アルバムを一通り完成させた」と認めているし、アデルやロードも2021年の新作リリースを示唆している。
もちろん、世界中の誰より「次の一手」が待ち望まれているのはビリー・アイリッシュだろう。2020年のシングル“my future”と“Therefore I Am(ゆえに我あり)”からも期待は高まる一方だが、兄フィニアスによると2作目は「みんなが外に出て踊りたくなるような」内容になるそうで、それゆえにコロナ収束後のリリースを検討中とのこと。
2021年がパンデミックの終焉とビリーの新作によって歴史的ビッグ・イヤーになることを願おう。ちなみに2月26日には、Appleオリジナルのドキュメンタリー作品『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』の配信もスタートする。
https://www.youtube.com/watch?v=0waV6CKcIcY
ここからはロック/バンド・ミュージックを中心に、2021年上半期のリリースが(ある程度)決定しているアルバム10作をご紹介。
まずは何といっても、通算10作目『メディスン・アット・ミッドナイト』を2021年2月5日にリリースするフー・ファイターズ。NMEのインタビューによると「ビッグなグルーヴとリフがあるパーティー・アルバム」で、デヴィッド・ボウイ“Let’s Dance”を意識した曲も収録されているとか。
実際、先行シングル“Shame Shame”は重厚なグルーヴが押し寄せる楽曲となっており、ダイナミックな作品が期待できそうだ。プロデューサーは2017年の前作『コンクリート・アンド・ゴールド』に引き続き、シーアやアデルで知られるヒット請負人のグレッグ・カ―スティンが担当している。
2018年のデビュー時、誰もがレッド・ツェッペリンを連想した「ロックの未来」ことグレタ・ヴァン・フリートは、2作目『The Battle at Garden’s Gate』を4月16日にリリース予定。古典的なロックを力強く鳴らしてきた4人は、初めての世界ツアーによって逞しく成長。こちらもグレッグ・カ―スティンがプロデュースを務めており、単なる焼き直しに留まらないモダンな新境地を見せてくるかもしれない……と言いつつ、先行シングルの“Age of Machine”は相変わらずZEPっぽさ全開でなにより。
ウィーザーの14枚目、その名も『ヴァン・ウィーザー』はコロナの影響で2021年に延期。それによって奇しくも、タイトルの由来であるギター・ヒーロー、エディ・ヴァン・ヘイレンへの追悼アルバムとなった。一昨年の来日公演でもブラック・サバスの“Paranoid”を披露していたように、彼らのルーツとしてメタル/ハード・ロックがあるのは有名な話。TOTO“Africa”のカバーがそうであったように、ぶったまげるほど笑える作品になっているのではないか。
続いては、UK屈指のロック・アクトに成長したロイヤル・ブラッド。9月に先行公開されたシングル“Trouble’s Coming”では、ベースとドラムで織りなすヘヴィなグルーヴはそのままに、ディスコ的なリズムが打ち鳴らされていた。この変化についてマイク・カー(Vo/B)は、「これまで以上に堅牢なダンス・ビートを取り入れたいと思った。ダフト・パンクとかジャスティスみたいなグルーヴ由来の音楽への回帰のように思っているんだ」と、クラブ・ミュージックからの影響を理由に挙げている。通算3作目となる新作は2021年春にリリース予定(タイトル未定)。
前作『ノーマン・ファッキング・ロックウェル!』が世界中で大絶賛されたラナ・デル・レイ。その後、ニューアルバム『Chemtrails Over The Country Club』は延期を重ねていたが、つい最近になってプレオーダーが1月11日開始とアナウンスされた。今度こそアルバムは完成しているそうで、本人曰く「フォーキーで美しく、前作とは違ったものになっている」とのこと。
ティーザー映像や先行シングルの“Let Me Love You Like A Woman”を確認する限り、彼女ならではのノスタルジックな作風を研ぎ澄ませながら、より歌心を追求したようなアルバムになっているのではないか。
2019年のフジロックでヘッドライナーを務めたシーア。3年ぶりとなる最新アルバムは、自身の監督デビュー作となる映画『MUSIC』にインスパイアされた楽曲集、その名も『Music - Songs from and Inspired by the Motion Picture』。
ケイト・ハドソンが主演を務め、シーアのミュージック・ビデオでおなじみの天才ダンサー、マディ・ジーグラーが自閉症の少女を演じる同映画のテーマは「愛が持つ癒しのパワーと絆の大切さ」だという。その普遍的でポジティヴなメッセージは、先行シングルの“Together”やアップテンポな最新シングル“Hey Boy”からも伝わってくるはずだ。
「ジミヘンの再来」と称されるオーストラリアの新世代シンガー・ソングライター、タッシュ・サルタナ。2月19日にリリースする2作目『Terra Firma』では、ほぼすべての楽曲の作詞作曲/アレンジ/パフォーマンス/エンジニア/プロデュースをひとりで担当しており、「まるでアレサ・フランクリンとボン・イヴェール、ジョン・メイヤーが夢の共演を果たしたような作品」とは本人の弁。
2019年のサマソニでも、ギターに加えて多彩な楽器とエフェクター/ルーパーを自在に操り、音楽の申し子としか言いようがないパフォーマンスを披露していた彼女。天才のさらなる進化を楽しみにしたい。
2020年に引き続き、大きな盛り上がりを見せそうなのがUKのインディー・シーンだ。ザ・キュアー的なゴス・テイストと80年代ポップの煌めきで、ここ日本でも人気を集めたペール・ウェーヴスは、2月12日に発表される2作目『Who Am I?』で大化けの予感。
11月に公開された先行シングル、その名も“Change”は、明らかにアヴリル・ラヴィーンを感じさせる曲調(と新作のジャケット)でファンの度肝を抜いた。続くシングル“She's My Religion”も2000年代のガール・ポップど真ん中。この時期のリバイバルがいよいよ決定的なものになるかもしれない。
大ブレイクが期待されているのがアーロ・パークス。英BBCの「Sound Of 2020」ノミネート、ビリー・アイリッシュがプレイリストに収録、“Black Dog”がNMEの年間ベストソング第4位に選出されるなど、常に話題を振りまき続けてきた彼女がデビュー・アルバム『Collapsed In Sunbeams』を1月29日にリリースする。
持ち味はジャジーなR&Bテイストと、近年のベッドルーム・ポップを通過したドリーミーな音楽性。誰もが大好きな要素を上品かつクレバーに束ね上げており、アルバムが出る頃には大騒ぎになっているのではないか。ロック・リスナー的にはレディオヘッドの影響にも注目したいところ(“Creep”のカヴァー、『イン・レインボウズ』的な“Eugene”など)。
近年、シェイムやゴート・ガール(この両者の新作も2021年早々にリリース予定)、ブラック・ミディなど独創的なバンドを輩出してきたサウス・ロンドンのベニュー「ウインドミル」から台頭した7人組、ブラック・カントリー・ニュー・ロードは2020年のダークホース的存在となりそうだ。NMEが「張り詰めた緊張感によって埋め尽くされたカオスな音の旅」と評しているように、キング・クリムゾンとゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー、ガール・バンドが合体したような轟音プログレ・ポップは、ある種の好奇心旺盛なリスナーを泣くほど歓喜させることだろう。彼らはニンジャ・チューンと契約し、実にデビュー作らしいタイトルの『For the first time』を2月5日にリリースする。
その他では、フィービー・ブリジャーズとの交流でも知られるジュリアン・ベイカーが2月26日に『Little Oblivions』を、再評価の機運高まるゴシック・ロックの雄、エヴァネッセンスが日本先行で3月24日に『The Bitter Truth』をリリースするほか、アリス・クーパー、メルヴィンズ、クラウド・ナッシングス、ライ、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー、グラスヴェガス、ジャンゴ・ジャンゴ、マキシモ・パークも2021年上半期のリリースを予定。もしかしたら、スリップノットの新作『Look Outside Your Window』も間に合うかもしれない。
レッド・ホット・チリ・ペッパーズも、ジョン・フルシアンテ復帰後では初となるニュー・アルバムの制作に取り掛かっているようだが、パンデミックの影響で遅れている模様。ザ・キュアーは長いことニュー・アルバムを出すと言い続け、ロバート・スミスも毎年のように仄かしているが、13年ぶりのニュー・アルバムが本当に出ることはあるのだろうか。ゴリラズとのコラボ曲がよかっただけに望みは捨てたくない。お約束のマイ・ブラッディ・ヴァレンタインに関しては、何かあるまでそっとしておこう。
こういう記事を書いていると、つい革新性とか未来的とか強調しがちだが、それだけが音楽の魅力ではもちろんない。ティーンエイジ・ファンクラブにも触れておこう。
2021年3月5日にリリースされる『エンドレス・アーケイド』では、ジェラルド・ラヴの不参加とユーロス・チャイルズ(ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキ)の加入という大きな変化はあるが、先行シングル“Home”の瑞々しいメロディーはいつも通りのTFC節である。これでいいのだ。ちなみにグラスゴー勢では、モグワイのニュー・アルバム『As The Love Continues』が2月19日に控えているほか、アラブ・ストラップがなんと16年ぶりとなる復活作『As Days Get Dark』を3月5日にリリースするという。2021年にアラブ・ストラップの話ができるなんて最高じゃないか!(小熊俊哉)
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