もちろん十分期待はしていたのだが、予想をはるかに超えた全体のスケール感に正直驚いた。疫禍に世界が苦しむこんなときだからこそとの決意が見られる各ジャンルの良作に交ざって、美しく強靭な創造の剣を振るって聴かせるウルフ・アリス、4年ぶりの3rd『ブルー・ウィークエンド』である。
15年のデビュー作『マイ・ラヴ・イズ・クール』、そして17年の2nd『ヴィジョンズ・オブ・ア・ライフ』と、どちらも素晴らしい作品を発表しオルタナティブ・ロック・バンドの誇りをかき鳴らしてくれたものだが、逆に言えばそこである種の大きな達成感を得たからこそ、次の展開や道筋を見極めるのは極めてしんどかったと思う。
そこらは先月号のインタビューでエリー・ロウゼル(Vo)が素直に「2枚目よりも3枚目のほうがずっとハードルが高いと思う」と語ってくれている。そしてそこで本作について「意識したことは、自分が書きたいように書いて、自分にブレーキをかけないってことかなぁ」と言っているのだが、それが歌や曲、サウンドに完璧に具現化されたことで、これまで以上のスケールを獲得するのに成功した。グランジもシューゲイズもパンクもネオ・アコも遺伝子として自然に豊かに持っているからこそ、ひとつの枠に突き進むのが難しかったりするが、今作ではそこらがふっきれている。
“The Beach”で始まり“The BeachⅡ”で締めくくられるという、聴き手にも多くの想像力を発揮することを求めるかのようなアルバム構成がまず効果的だし、その1曲目から、90年代を通過したケイト・ブッシュが舞い降りたかのごときシアトリカルな“Delicious Things”、そこで柔軟に馴染んだ身体ごと、より奥へと連れ込んでいくような深み/凄みが出た幽玄なボーカルが魅力的な“Lipstick On The Glass”、すべてを受け止めパワフルに包み込むサウンドとラップで展開される“Smile”へつながる前半の流れが素晴らしい。
トータリティに富んではいるが、決して直線的ではなく、多彩な方向性での広がりが快感へとどんどん変換されていくのが気持ちいいのだ。そんなごきげんな気分を両手を広げて受け止めるのが、次のアコースティック・ギターで始まる“Safe From Heartbreak(if you never fall in love)”というのだから出来すぎ。もともとエリーのボーカルとジョフ・オディのギターのデュオがバンドの原点だけに、こういう曲のハマり具合が良いことは改めて言うまでもないだろう。
その後も、痛烈なパンク・ナンバー“Play The Greatest Hits”もあれば、デヴィッド・ボウイをどこか連想させる“The Last Man On Earth”やポップなキュートさを全開させた“No Hard Feelings”なんてバラエティに富んだ曲が次々と楽しませてくれる。
プロデュースにあたったマーカス・ドラヴスとの相性が良かったのもこの流れが証明しているし、これほどスムーズにバンド・スケールをアップさせた姿に誰もが大満足するはず。ライブ、観たい!(大鷹俊一)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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