世界最大の音楽&アートのフェス:グラストンベリー・フェスティバルが5月22日に5時間以上の独占パフォーマンスを配信した。若手からベテランまでラインナップは強力で「現代フェスの母」の名に恥じないし、何よりザ・スマイルの世界お披露目はさすが!
ひとつの町と言える広大な農地に多種多様なステージやテントがちらばり、丘陵や木立を抜けると思いがけない音と絵が広がる――そんな地の利を活かし、フェスの持つ様々な表情を朝から晩の流れで疑似体験できた。
一番手ウルフ・アリスは初夏の太陽と緑にノイズ・ギターを解き放ったし、倉庫で暴れたアイドルズのテストステロン値は映画『ファイト・クラブ』ばり。雨にもかかわらず、新曲“Higher Power”で力一杯にキックオフしたのは実質のトリ=コールドプレイで、代表曲の連打と花火や照明は「これぞフェス」な醍醐味で盛り上げた。普段との勝手の違いをバンドは楽しんでいたが(「農場の牛相手のショーは初めて!」とクリスもおどけていた)、4人を囲む無数の電飾の輝きを上空から捉えた絵は大観衆を思わせて泣けた。
満月を模した巨大なビニール球のもと、名所のひとつ:ストーン・サークルで演じたのはデーモン・アルバーン。パンデミックによって活動が延期されている新プロジェクト「The Nearer the Fountain, More Pure the Stream Flows」を軸に、ブラー、ゴリラズ、ソロ、TGTB&TQとキャリアを俯瞰する選曲をジャズ/フォーク系の落ち着いた演奏でしっとり聴かせ、グラストが象徴するイギリスの土着的スピリチュアリティを醸してくれた。
クラブ・ギグの熱気、アコギの弾き語り、大掛かりな演出、レイヴと盛りだくさんな内容だったが、2年連続開催中止の難関を乗り切ろうとするこのフェスに誰もが一肌脱いだ。何より、バンドやアクトはもちろん弦楽奏者、聖歌隊、ダンサー、ブラス・バンドといったパフォーマー、カメラ、照明、ステージ技術者、警備や移動クルーに至る裏方まで、ライブ・シーンの消滅であえいでいる人々に思いを馳せずにいられなかった。祝賀であると同時に警鐘でもある、例年とは違う複雑なニュアンスを帯びたグラストだった。(坂本麻里子)
グラストンベリー・フェスティバルの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。