歪な時代を映す不健全な愛の歌

平手友梨奈『かけがえのない世界』
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平手友梨奈 かけがえのない世界
昨年12月にリリースした“ダンスの理由”に続く2nd配信シングル。7月、『FNS歌謡祭』でのサプライズ披露には多くの感嘆の声が上がった。平手友梨奈の歌とダンスは、その肉体や声を介した、この時代を映し出す表現であるとさえ思えた。ダークにグルーヴする小気味よいテンポのダンスチューンにのせ、「かけがえのなかった」はずの誰かについて一方的な思考を展開する「僕」。愛していたものを失った時、ただ悲しみに暮れるなら、ひたすらに喪失感に浸るならまるで健全だ。けれど、《僕は元々/自己中心的で/他人(ひと)のことなんか/どうでもいい》と、その喪失感や、人を愛するという気持ちに向き合うことからも逃れ、独善的な思考をループさせていく様に現代的(かつ普遍的)な不健全さが浮き彫りになる。かけがえのない世界など存在しないと結論づけなければ成立しないアイデンティティ。《悪くはない/孤独の世界》と結ばれるラストも、折り合いのつけ方として果たしてポジティブなのかネガティブなのか――それすらもわからない。そんな時代の表現者として、平手は今この歌を歌う。(杉浦美恵)

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