心が震えた瞬間を、香り、味、肌触り、空気感などの描写を通じて曲の中で結晶化させることに、ベボベは圧倒的に長けている。たとえば今作に収録されている“DIARY KEY”は、雨や都会の海風の香りをイメージさせる描写を胸の奥底に着々と刻まれていく記憶と結びつけている曲だ。また、プールサイドの風景を時間経過も交えながら描いている“プールサイダー”は、清涼飲料の甘酸っぱい風味のことも自ずと思い浮かぶタイトルが持つイメージと歌詞の描写が融け合いながら、時が過ぎ行くことの切なさと変わらない何かを浮き彫りにしていく。こういう表現はリスナーの五感の記憶もくすぐり、描かれている世界への没入を美しく後押ししてくれる。だからエネルギッシュなサウンドであったとしても、ベボベの音楽を聴くと胸の奥底が心地好く締め付けられるのだと思う。「日記の鍵」というモチーフが“海へ”と“DIARY KEY”を読み解く喜びを提示してくれるなど、想像力も様々な形で刺激するこのアルバムは、変化も経た20年間の軌跡の中で磨かれた3ピースサウンドの多彩な切れ味にも浸らせてくれる。(田中大)
五感と記憶を活性化する音楽
Base Ball Bear『DIARY KEY』
発売中
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ALBUM