不器用な自身を器用な表現に

秋山黄色『ソーイングボックス』
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秋山黄色 ソーイングボックス
再生して間もなく、ピアノのドレミファソラシドの鍵盤をすべてバシャーンと叩いたような音が入っている。これを聴いて、私自身がピアノと向き合っていた時「うまく弾けない、どうにもならない!」とイラッとしてバシャーンとやった記憶が蘇ってきた。そうしたら歌いだしが《どうにもならない事だって思うから》で、苦笑いしてしまった。秋山黄色の創作は実に細やかだ。聴き進めても、リスナーが何かを感じ取れる仕掛けが、歌詞・メロディ・サウンド、総動員でリンクしてちりばめられている。それ故に“ソーイングボックス”という曲名も頷ける、パッチワークのように切って縫ってを繰り返したことを想像させる大胆な構成にもなっている。一気に天上へ連れていくような、壮大なサビはその極みだ。

《愉快なリズムが一番の薬》と歌う通り軽やかに聴けるけれど、終盤ズバンと《死にたいんだ》という本音が現れる。秋山黄色は不器用なほど正直な人だと思うのだけれど、そんな自身を試行錯誤しながら器用な表現に落とし込もうとしている。だから、《未来の事愛してみたいよ》という結末が切実に響くのだ。(高橋美穂)

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