すごい歌だ。知らず知らずのうちに自分の心の奥底に染みついてしまっていた諦念やら自己否定的な思考やらをまるごとクリアにしてくれるような楽曲。この時代、未来をポジティブにイメージすることなど難しいと思っていた自分が情けなくなる。というか、そんな情けなくなるというネガティブな感情さえ軽やかに吹き消してしまうのがこの楽曲の持つ力だ。軽やかに自然に前へと足が進むようなビートとピアノサウンド、そしてすべての重苦しさから解放してくれるような歌声。この楽曲で “grace”とは「恵み」のような意味だと藤井 風はコメントしている。人は悲しみに暮れては救いや恵みを求めるけれど、日々誰にも等しく訪れていたはずの恵みに目を向けることなく距離をとっていたのは自分自身のほうであったと、この“grace”はとてもナチュラルに気づかせてくれる。特定の神への信仰を促す賛美歌ではなく、もちろんそうした信仰へのカウンターでもない。すべては自分の中にあると、そしてひたすら純粋に、愛や希望の光を自ら消してしまうことのないようにと、この歌は告げている。（杉浦美恵）

『ROCKIN'ON JAPAN』12月号より