秒針が時を刻む音とピアノだけが響く、静かで孤独な場所からこの曲は始まる。どこまでも内面に潜っていくようにして、稲生司(Vo・G)は言葉を紡ぐ。自分の弱さを受け止め、それでも信じられる愛を描き、ツアータイトルにもなっていた《両手を広げれば今夜/どこまでも飛べそうさ》というフレーズにたどり着く時、いつの間にかそこには分厚いバンドサウンドが鳴っている。稲生の体調不良、吉河はのん(Dr)の活動休止の決断と、大きく飛躍する中でさまざまな困難に向き合ってきた2022年のMr.ふぉるては、この曲を生み出し、ツアーを走り切ることで腹を決めたのだと思う。《どこまでも飛べそうさ》というのは希望というよりも決死の覚悟であり、傷ついた自分自身に向けた全力の願い。そのために必要なのは《君》、つまり彼らの音楽を受け取るあなたたち一人ひとりだ。ほっといたら押し潰されそうな重苦しい世界だが、音楽があれば対話も愛し合うこともできる、と歌ってきたのがこのバンドだとすれば、それを再びとても純粋な形で提示するのがこの曲だ。稲生の声はこれまで以上に力強い。(小川智宏)
(『ROCKIN'ON JAPAN』3月号より)
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