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月はラテン語で「luna」だが、英語で「lunatic」となると「狂気的な」とか「愚かな」という意味になる。月が人を狂わせる、と考えられていたことに起因する。この米津玄師の楽曲“月を見ていた”に描かれる人の心象も、非常に「ルナティック」なものと言えるのかもしれない。月光に照らされながら、ひとり、何かを思い出し続け、何かを決意し続ける人の姿。それを悲劇の主人公や喜劇の主人公と見る人もいるだろう。だが、当の米津の筆致には、この月下の人の心に対して哀れみも嘲笑もない。彼はただ、自らの愚かしさも孤独も受け入れて月を見つめる人の気高さを、月光に照らされるその心の輪郭を、静謐に美しく描いている。「おかしな奴だ」と言われようが、狂気と言われようが、一心に何かを見つめ続ける人の心が、彼にはよく理解できたのかもしれない。『FINAL FANTASY XVI』のテーマソングとして書き下ろされた楽曲だが、孤独に何かに立ち向かう人のテーマソングにもなるであろう一曲である。(天野史彬)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年9月号より抜粋)
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