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まず、歌に魅了された。震えているような声だ。その震えは何かに怯えているようでもあり、勇敢な武者震いのようでもある。その繊細な揺らぎとしなやかさをたたえた歌声の魅力を、バンド全体で熟知しているのだろう。時に波のような抑揚を描いてみせる演奏が、歌に更なるダイナミズムを与えていく。やっていることはシンプルなようだけれど異質で、安易なカテゴライズを拒むようなミステリアスな存在感がある。2022年6月に結成された3ピースバンド。この2曲入りシングルからも彼らの才気は感じることができる。1曲目“tengoku”の叙情性は現時点でバンドの最も表立った強みと言えるが、R&Bを消化した2曲目“Summer Conte”のメロウネスからはバンドの音楽的な広がりが窺える。《片手に持ったこのチューハイを/家路尽きるまでに飲みほそう》――こんな生活と恍惚が混ざり合うような歌詞にも色気がある。家路を「尽きる」と表現するほどに生きることを謳歌する人と人の姿が、そこには浮かび上がる。(天野史彬)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年11月号より抜粋)
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