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11月に開催されたカバー曲中心のスペシャルコンサート=「ロマンスの夜」に向けて宮本浩次が対峙したのは、作詞:松本隆&作曲:呉田軽穂(松任谷由実)による薬師丸ひろ子の名曲“Woman "Wの悲劇"より”。《ああ時の河を渡る船に/オールはない 流されてく》……運命に翻弄され揺れ動く女心そのままに、ミステリアスな軌跡を描くコードワークとメロディを、宮本の歌声はその情感も含め丹念に辿り、内なるセンチメントとともに響かせてみせる。ハイトーンボイスの極致を体現するかの如き原曲のドラマチックな神秘性とは一線を画し、ひときわ豊潤な質感のボーカリゼーションを通して楽曲全体にみなぎる肉体性が、力強い包容力をもって胸に迫る。『ROMANCE』以降向き合い続けてきた女性ボーカル曲のキャリアにおける、ひとつの到達点と呼ぶべき名カバーだ。宮本がソロのライブ活動を通して築き上げてきたバンドアンサンブルの密度を、原曲の空気感と巧みに織り合わせてみせた小林武史のプロデュースワークも絶妙。(高橋智樹)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年2月号より抜粋)
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