これは本当にカッコいい

スプーン『トランスファレンス』
2010年02月03日発売
ALBUM
08年2月の来日時に話をした際、ブリット・ダニエルは「もう(前作『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』が)トップ10にも入ったことだし、これからはみんなをギョッとさせるような、変なレコードを作るしかないでしょ」と語っていた。その冗談めかした話が実際にどれくらい新作のレコーディング現場で意識されたのかは分からないが、確かに今作収録曲のアレンジは冒頭からかなり変わっている。途中で伴奏が唐突に鳴りを潜めてしまったりするし、つんのめったリズムは鋭いロックンロールのビートというより不思議な浮遊感をもたらすものだ。ラストもブツリと無愛想に終了してしまう。だが、これが取っ付きにくい難解な内容になってるかというと、そんなことは全くなくて、絶妙な感じでフックが効いている。これは、ブリットのソングライティングにおける技量はもちろん、エリック・ハーヴェイが弾く鍵盤のセンスに負うところも大きい。

ずっと地道にキャリアを重ねてきた彼らは、初期と変わらぬ緊迫感を保ちながらも、若いパンク・バンドのように感情を抑えきれず、すぐ走り始めてしまうようなマネはしない。テンションを秘めながら、キメるところでビシッとキメる、そんなクールネスがたまらなく魅力的だ。テキサス出身のブリットは、現在ポートランドで暮らしているそうだが、ジョニー・マーやクリブスのゲイリーも魅かれ住む北西部シーンのポイントとなる町に身を寄せたことからも 何か影響があったのだろうか。

とにかく、個人的には早くも今年のベスト・アルバム候補だし、新しいディケイドが始まって最初の傑作であることは間違いない。(鈴木喜之)