優しい力がみなぎっている

鬼束ちひろ『剣と楓』
2011年04月20日発売
ALBUM
鬼束ちひろ 剣と楓
このアルバムを聴き終えたとき、青空を仰ぎ見るような開放感を覚えた。長年の鬼束フォロワーである私にとって、これは初めての体験だ。というのも、胸を締め付けるような叙情と、息を呑む緊張感に身を浸す体験こそが、鬼束ちひろの音楽を聴くことだったから。

音楽性が大きく変わったわけではない。トラッドからダンスミュージックまで取り入れたサウンドはこれまで以上の幅の広さを見せているが、その核心にあるのはデビュー時と同じく、哀調を帯びた歌とメロディである。安易な解決を拒むように心理的な葛藤を焼き付けた歌詞は、むしろ過激さを増している。つまり作風に変化はないのだが、リスナーが受け取るものはこれまでの作品とは違う。

一言でいえば、このアルバムの歌声は優しいのだ。あらゆる悲しみや苦悩、迷いを描きつつも、鬼束の歌声はそれらをすべて包み込むような場所から響いてくる。《どんな絆よりも どんな答えよりも 優しい力に泣きたくなるよ》(“EVER AFTER”)というフレーズは、この作品が持っている力が何であるかを図らずも言い尽している。(神谷弘一)
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