闇に囚われた心が闇を制した瞬間

エヴァネッセンス『エヴァネッセンス』
2011年10月12日発売
ALBUM
エヴァネッセンス エヴァネッセンス
これはすごい。「ゴスでエモーショナルなエイミーの麗しのヴォーカリゼーション+身体を底から震わせるヘヴィ・ロック」という構造は1st『フォールン』の黄金律を継承しながらも、前作『オープン・ドア』以降5年ぶりとなる今作の音の質感や作用はこれまでの作品とはまるで異なる。挑発的なビートとともに聴く者に白か黒かの決断を迫っていくようなM1“ホワット・ユー・ウォント”。ピアノの幽玄なるアルペジオの音階が聴く者すべての感情を喪失感で塗り潰すM4“マイ・ハート・イズ・ブロークン”。絶頂と虚無を同時再生したかのようなM9“エンド・オブ・ザ・ドリーム”のメロディ……それこそ目も眩む勢いで噴き上がったエモーションが軋みを上げながら重力崩壊する瞬間だけを、これ以上ないくらい丁寧に高純度蒸留&瞬間密封したような、めくるめく壮絶な音。エイミー自身は今作を「バンド主体のサウンド」と分析しているようだが、ここで聴かせているサウンドスケープはむしろ、轟音も旋律も1音残らずそのコントロール下に収めたエイミーの揺るぎなき支配力と、それによっていっそうヴィヴィッドに浮かび上がった彼女の内面世界の拭い難き哀しみそのものだ。
 
1stリリースから間もなくメイン・ソングライター=ベン・ムーディーがバンドを去ったのみならず、その後もメンバーの交替が相次いだエヴァネッセンスという共同体に再びスピリットを注ぎ込み、己の闇をそのメロディの中に丹念に塗り込め、唯一無二の美麗なる闇を改めて世界に提示してみせたエイミー。その漆黒の輝きは今なお、いや今こそ一層の妖気をもって胸に迫る。(高橋智樹)
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