物語は始まったばかり
アトラス・サウンド『パララックス』
2011年10月26日発売
2011年10月26日発売
ALBUM
名実ともにバンドのブレイクスルーとなった作品を経て再び取り組んだソロ作という点でも、バンドの今後の方向性を占うという点でも、パンダ・ベア@アニコレ『トムボーイ』を思い起こさせる。しかしこのブラッドフォード・コックスによるソロ3作目は、何より単純に音の素晴らしさにくらくらさせられるのだ。傑作。ミック・ロックが撮ったジャケットの写真が物語っているが、ロックンロールの色気とエモーションがピュアに溢れ出ている。作り手の単なる躁状態がこういう突き抜けた作品に繋がることもあるが、ブラッドフォードの場合は違うだろう。近年、ディアハンターにおいてもそうだがどんどん自信が漲っていくような力強いヴォーカルと、基本は不変ながら粒がひとつひとつ立ち上がるような見事なソリッド感を備えたサウンドスケープ。“モナ・リザ”ではMGMTのアンドリューがヴォーカル&ピアノで参加しているが、この曲をはじめとして、より解放されたサウンドを自ら掴みに行くブラッドフォードのポジティヴな姿勢によってこの進化がもたらされたのではないか。タイトルの意味は「視座」。新たな物語がここにはある。(羽鳥麻美)