アーケイド・ファイアとのコラボで知られるヴィンセント・モリセットを監督に据えたこの映像作品は、シガー・ロスの音楽の、凍てつくような極北の荒野を思わせる暗黒世界の凄絶な美しさを、圧倒的な完成度でもって表す。全編モノクロ、それも粒子の荒れた極端なハイ・コントラストの、ほとんど光と影だけで形作られた映像は、戦前の無声映画のようなどこかノスタルジックな感覚と、かつてのATG映画のごときアブストラクトな前衛性を併せ持つ。大胆なカメラ・アングルと、音楽にあわせゆったりとたゆたうように流れていくエディット・ワーク、前衛的なライティングなどで描き出されるスタイリッシュで静謐な映像美は、外界から切り離された孤高なものだが、だが同時に我々が生きるこの世界の痛みと悲しみに満ちた困難さを象徴するかのようである。CDもそうだが、映像ではなおのこと、張り詰めた緊張感が持続し、ほとんど窒息しそうになる。これほどまでに的確にアーティストの目指す世界観を具現化した映像作品があったろうか。
『残響』での色彩感と生命力に満ちた陽光きらめく世界とは対極的なダークネスは、初期の彼らに近いと言える。ぼくにとっては、これこそがシガー・ロスだ。(小野島大)