自由な視点、ブレない基準

星野源『フィルム』
2012年02月08日発売
SINGLE
星野源 フィルム
表題曲“フィルム”は、聴き手を自由にしてくれる歌だ。《笑顔のようで 色々あるなこの世は》という歌い出しで始まるこの曲は、いわば星野源による「複眼のススメ」。映画のフィルムに焼き付けられる光景が、カメラワーク次第で大きく変化するように、物事は見方によっていかようにも変わる。星野源はそれを《どうせなら 作れ作れ/目の前の景色を》という端的なフレーズで表現している。
もっとも、これが散文であれば「何でもあり」式の相対主義にとどまったかもしれない。その点、星野源は音楽家である。レンズをのぞく主人公の心の動きを、美しいメロディに乗せて描き出すことで、その横顔をいきいきと浮かび上がらせる。やがて主人公は呼吸音のようなリズムとともに歩き出し、「観察者のブルーズ」ともいうべき音楽劇を演じるのだ。
派手な喜怒哀楽は表現されないが、星野源の歌声にはルー・リードにも似た芯の強さが感じられる。複数のカメラで対象をとらえつつも、決してブレることのない何か。星野源ミュージックの心地よさの土台には、観察者の倫理と呼ぶべきものがあるのは間違いない。(神谷弘一)
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