なんと4年ぶりの新作である。しかも未だ2作目である。4年ぶり2作目の事実に驚いてしまうのは、その間にザ・ティン・ティンズが何度も来日を果たしていたこと、そしてデビュー・アルバム『ウィ・スターテッド・ナッシング』が彼女達の不在を感じさせないほどに強力で、時を越えて継続的なポップ・アルバムだったからだ。たとえば“グレイトDJ”一曲に象徴されるように、前作は言わば黒々太々したひと筆描きのようなアルバムで、大好きな曲を何度も何度も執拗にリプレイして自分の血肉としていく感覚を覚える、まさに「定着」の一枚だった。翻ってこのティン・ティンズの新作は一カ所に定着することを拒む、前作とはむしろ真逆のコンセプトの元で作られたアルバムだと言っていい。
本編全10曲でトータル・タイム33分という簡潔な作りのアルバムにも拘らず、本作にはいくつもの分離独立した視点が存在する。あれもこれもと移り気な足取りでエレクトロにソウル、ヒップホップにカントリーにパンク・ロックにと、本作は曲毎にくるくると表情を変えていく。そんな本作の作風についてジュールズは「ライフスタイルが直反映された」結果だと語っている。ライフスタイルとはつまり2年に及んだ彼女達のツアー生活であり、各地を転々とする根なし草の生活―まさに「非定着」自体がコンセプトとなったアルバムなのだ。10曲がそれぞれ別個の意味において素晴らしいポップ・ソング揃い。そこは保証する。極太の柱ではなく、細かいパーツの組み合わせで設計された新たな家=アルバムとしての強度は、1年後くらいに再点検してみたい。(粉川しの)
定点を捨てる旅の音
ザ・ティン・ティンズ『サウンズ・フロム・ノーウェアズヴィル』
2012年03月28日発売
2012年03月28日発売
ALBUM