人間の営みを淀みなきグッド・メロディに昇華するためには、人生における大切なものを真っ直ぐ撃ち抜くコントロールと同時に、何がネガティヴ要素で何がノイズかをシビアに峻別する批評眼が必要だ――ということを、1年間の休養&自らのキャリアの客観視を経て生まれた前作『ウィ・シング。ウィ・ダンス。ウィ・スティール・シングス。』でのジェイソン・ムラーズは、そのリラックスした音世界でもって体言していたが、4年ぶりの新作となるこのアルバムでの彼の歌と音はさらに磨きがかかっている。というか、「リラックス」とは決して自然体やレイドバックの産物ではなく、己を取り巻くプレッシャーやストレスをひとつひとつロジカルに引き剥がした先にしか到達できないメンタリティであることを、米iTunesシングル・チャート1位を獲得したM4“アイ・ウォント・ギヴ・アップ”の麗しのメロディ&アンサンブルや、M7“93ミリオン・マイルズ”の悠久のスケール感、M12“ザ・ワールド・アズ・アイ・シー・イット”の軽やかなくせにどこまでも凛とした音像……といったディテールの数々が粛然と告げている名盤。(高橋智樹)