ジャスト・ア・スーベニアヴォコーダーで歌いまくる“マイ・シャローナ”+ジャズ・ロックみたいな曲調のM4、ヘヴィなギター・リフで攻めるメタルっぽいM5やM8あたりの流れにかなりビビる。スクエアプッシャー、いきなりロック・バンド化!? もちろん超絶テクニックと緻密な音構成、性急なビート感覚という“トム・ジェンキンソン印”の味付けは様々な箇所に生きている。とはいえ、ここ数作とは明らかにテンションと方向性の違うアルバムである。それまでの集大成を示し自身も最高傑作と認める『ウルトラヴィジター』(04年)、ドリルンベースの原点に回帰しポップネスに満ちた『ハロー・エヴリシング』(06年)と、10年以上にわたるキャリアを見つめなおすような作品が続いていた彼だが、この新作はどちらかと言えば問題作になるだろう。テーマはバンド・サウンド。かなり前にもドリルンベースを離れ全曲生楽器のアルバムを作っていた彼だが、その頃の内向的なジャズ・テイストに比べると、格段に派手かつ洗練されている。鬼才&奇人である彼にどんなイマジネーションが働いたのかは推測もできないが、刺激的な作品であることは間違いない。(柴那典)