昨年の本誌取材でウェイン・コインはこのアルバムを「遠い未来に作られた宗教音楽」と形容していたが、エレクトロニックが基調のスペイシーなサウンドとエピックな広がりはなるほど言い得て妙だ。しかし宗教的悦楽や高揚ではなく、本作はダーク・サイドへのスピリチュアルな下降を描いていく。エフェクトや音の質感をはじめ70年代初期ピンク・フロイドが随所に影を落としているが、「歌」の枠組みからはみ出し繫がっていくアメーバのような楽曲にミニマルなメロディ、霧散するサウンドが醸成する抽象的な美は昨今の前衛エレクトロ勢とも共振。『エンブリオニック』の一部に既に萌芽していたとはいえ、ここまでメンバー間の交感~ジャムの流動性1枚に押し広げたのは初のことだし、感覚に直接浸透する霊的な音楽が生まれている。
仮にこれが「未来から来た音楽」なら、「早過ぎて理解されない」可能性も秘めていることになる。しかし自分達のニッチを自ら切り拓いて来た彼らに、筆者は人気者であるより開拓者であることを望む。その勇気を再び証明した本作はいずれ、リップスの全作品中トップ・クラスに位置する1枚になると思う。(坂本麻里子)
もっとも深く美しいトリップへ
ザ・フレーミング・リップス『ザ・テラー』
2013年04月17日発売
2013年04月17日発売
ALBUM