デイヴ・シーテックがプロデュースを手がけるということでかなり身構えていた方も多いかもしれない。だが結論から言っておくと、心配は無用。このアルバムには、リアム・ギャラガーにしか、ビーディ・アイにしかできないことがぎっしり詰まっている。リアムのことを分かっているなら、そしてもっと分かりたいなら、その答えが至る所に隠されている。ジャケ写のアート志向は、一枚のレコードというものに込められたエモーションの表れでもあると思う。なぜなら、最初から最後までじっくりと腰を据えて聴くことで初めてこのアルバムの物語が見えてくるからだ。ストーリー性というのとは少し違う。プロダクションもソングライティングも、そしてその結びつきもとてもよく練られていて、シーテックの頭脳とビーディ・アイのカンがぴったり合致しているのが分かる。いきなりのブラス・セクションに圧倒されるM①は、しっとりとすら聴こえるリアムの声もよく、オルガンをフィーチャーしたシーテック色の強いM②はソングライティングが光る楽曲。じわりと染みてくるそうしたオープニングを経て、オアシスっぽさを匂わせる〝スーン・カム・トゥモロー〞を前半の最後に置き、翻って後半はリアム節全快の〝アイム・ジャスト・セイイング〞、〝ドント・ブラザー・ミー〞といった攻撃的なナンバーを配しウォール・オブ・サウンドなM⑪で締めている。こんなに、アーティストの本質が活かされながら、よくまとめられたレコードも珍しい。方向転換をただの「驚き」にしない、喜びのアルバムだ。(羽鳥麻美)