デビュー10周年を記念して、2枚のベストアルバムを発表するAqua Timez。楽曲が持つイメージによって『RED』『BLUE』と振り分けられたこのベスト盤は、“決意の朝に”や“虹”、“千の夜をこえて”など、大ヒット曲がずらりと並ぶ超豪華なアルバムだ。この30曲を聴き、当時の記憶に思いを馳せるリスナーもいるだろうし、あるいはまさに「今」を「生きるために」必要な言葉が詰め込まれたメッセージ集として背中を押される思いでいる若いリスナーもいるだろう。いずれにせよ、Aqua Timezというバンドは10年前からたったひとつのことを叫び続けてきたということがわかるはずだ。そしてそれがとても大事で、それゆえに彼らは強く大きな覚悟を背負ったポップミュージシャンであり続けてこれたのだ、ということもわかるはずだ。その思いの強さこそが、彼らのメロディに普遍性をもたらし、言葉を本質的に磨き、世代を超えて胸を打つサウンドへと導いていったのだ。
「目の前の人を肯定する。肯定し尽くす」――これはこのインタヴューの中で太志が話してくれた言葉だが、このテーマにこれほどのまっすぐさで殉じてきたバンドはAqua Timezをおいて他にない。この10年の葛藤、そして確信。すべてを語り尽くしてくれた貴重なインタヴューになった。
インタヴュー=小栁大輔
1回広まったイメージはもう変わらないし、それをもう一度塗り替えることってそんな簡単なことじゃない(太志)
―― 『RED』『BLUE』と、Aqua Timezの楽曲を赤と青に分けるっていうのは、相当難しいことだったと僕は思うんですよ。
太志(Vo) 結局最後は無理やり押し込みました。
mayuko(Key) どっちとも言いがたいっていうのは確かにあるんですよね。
TASSHI(Dr) 多少強引に決めたところもあったんですけど、でもおおまかに、赤盤の優しい雰囲気の曲とかハートウォーミングな感じと、青盤のロックな部分、尖った部分っていうのが僕らの特色でもあるので。5年前に出したベストの時はそういうのを考えずに、しかもベスト盤といいながら結構アルバム曲も入ってたんで、今回はシンプルにシングルだけで2枚作れるぐらいになったし、それをごちゃ混ぜにちりばめるよりも、なんとなくの指標として、選んでもらう時に参考になればなという感じで2種類に分けましたね。
―― なんで分けるのが難しいと思ったかというと、言っていることが本当にひとつなんですよ、Aqua Timezって。だからすごい難しい作業だっただろうなあという。
太志 そうですね、音で決めたところがでかいですね。
―― 特にシングル曲に注がれている、この1行がちゃんと届いてくれっていう強さや、サビの頭の異常な強さがこういう形で並ぶと、まあお腹いっぱいにはなりますよね(笑)。
太志 一番最初に、インディーで拾ってくれた社長に「あなたコピーライターみたいだね」って言われたことがあって(笑)。そんなつもりでやってたわけではないんだけど、「サビっていうのはこういうものなんだよっていうのがきみはできるから」って言われて。自分でもわかってなかったんですけど、確かにサビはキャッチーというか、でもキャッチーって言葉すらも知らないまま、歌詞を書いてたから、自分はそういうものが好きなんだなと思って。好きというか、強い、ど真ん中の直球が好きだから、シングルも奇をてらうというよりは、思いっきりポップにっていう気持ちがあったのかなと思いますね。
―― それはみなさんも感じてると思うんですよね。曲の構成を作っていく時も、必然として似てくるんですよね。だってこれ聴くと、サビ始まりの曲、異常に多いですよ。
太志 ライヴで困るんですよ、実は(笑)。
mayuko 私たちも結構葛藤してた時期あったよね。サビ始まりについて(笑)。
太志 うん。「またか、どうする?」みたいな。でもこうやってパッと見ると確かに。
TASSHI サビ始まりで、そして落ちサビをつけるっていうのが我々の王道で。
太志 シングルはそういう正装をしなければいけないっていうのがあるのかもしれないですね(笑)。
TASSHI 曲はやっぱり頭が大事じゃないですか。たとえばイントロっていうものは、サビよりももっとインパクトがあるものじゃないといけないみたいな美学があったりして。名曲の数々はだいたいイントロのリフ聴いて「うおー!」ってなるし。そういう音楽ももちろん素晴らしいんですけど、僕たちの一番大事にしてるのは太志の歌詞であり、歌をまず冒頭でしっかり届けるっていうバンドのスタンスが一貫してたのかなって、今振り返ってみると思いますね。イントロの前にまず最初に歌がつくっていう(笑)。
―― A、B、サビというオーソドックスな形にしようと思っても、Aqua Timezとして強いメッセージを持った曲にしていく作業のなかで、結局サビが頭に来るっていう。そういう順番を繰り返して、結果的にこうなっていったんだと思うんですよね。やっぱりこの形しかないよなあっていう。
太志 10年、シングルっていうものにこだわってきたんですよね。タイアップの中でやらせてもらうというチャンスをもらえてたんで、それがでかかったですよね。それもありがたいことだってほんとに思うし。
―― 最初に言いたいことをバーンと言う。要はそこで好き嫌いが判断されてしまうわけじゃないですか。その勝負を張り続けてきてるバンドなわけですよね。
太志 張り続けてきましたね。だから諸刃の剣だよね。そんな大胆なこと最初に言っちゃって、そのあと何言うのあんた、みたいな。そこは潔くやってきましたね。やっぱりね、聴く人数としてシングルに勝るものはないんだなっていうのもわかりましたしね。1回広まったイメージはもう変わらないし、それをもう一度塗り替えることってそんな簡単なことじゃないんだなっていうのは、今すごく感じてます。だから今俺らがまったく違うことをやっても、それが浸透するのに何年やっても、それこそ10年やってもそのイメージを変えることなんてできないんじゃないかなって思ってるぐらい。これまでテレビにもガンガン出させてもらったし。でもそれは自分たちが成長の途中にいる中でどんどん出て行くわけで、完成されたものじゃなかったから。でもそれを選んだわけだからもう戻れないですよね。
―― このバンドは最初から、言いたいことがエッセンシャルだったんだと思うんです。常にこのバンドの本質から始まるし、常にそこに行き着いてしまうんですよね。
太志 ああ、そこに向かいたいのはありますよね。さり気ない何かを歌うよりは、しっかり答えを出したいっていうのはありますね。1曲の中でそれをしっかり伝え抜かないとなんか気持ちが悪い、みたいな気持ちはあると思う。全部完結させてるんですね。そう思うと、結構大変な作業だったなと思いますね。
ちっちゃな子どもでもわかる単語で、大事なテーマをちゃんと届けられるかっていう、一番難しいことに彼は挑戦してる(TASSHI)
―― それを10年間やり続けてきたわけじゃないですか。毎回そのトライアルをやって1曲の中でひとつの答えを出すということをやってきた。それを支えていたのはモチベーションなのか、バンドとしてのモラルなのか、いったいなんだったんだろうっていう。
太志 でもやり方をそれしか知らなかったのかなっていうのはある。それ以外のやり方を別に探さなかったし。確かに人の曲を聴くと、この物語は難しいな、とか思うこともあるんだけど。でもそれが美しかったりするのもわかるし。でも自分は全部を言いたいし、全部つなげたいし、じゃないと物語を伝えられないっていう、そういう癖があるんですよね。何がそうさせたんだろうね(笑)。たぶん僕が子どもの頃から聴いてきたものが、ちゃんと答えのあるものだったのかなあと思いますね。不思議な感じで終わっていくものに納得できなかったのかな、きっと。曲はかっこいいけど意味わからなかった、難解だった、っていうことは音楽を聴いていく中でいっぱいあったから。友達と話してる時はその複雑さをわかったふりしてたけど、「あれは深いでしょ」とか言って。だけどちゃんとしたかったのかな。自分は気持ちよく終わらせたい。バッドエンドだとしても、物語にエンディングをちゃんと持たせるというか。そういう意味で聴き手にとってシンプルなものに結果的になっていったんだなと思うけど。ちょっと意味不明なこともやってみたいけどね(笑)。憧れちゃうけど。
TASSHI 難解な言葉遣いだったり、たぶんやろうと思えばできるんですよ。話をちょっと飛ばして結末を曖昧にさせたりっていう、それをすることによって芸術性は高く見られるかもしれないけれど、「俺がやりたいのは誰にでもわかりやすい言葉で、しっかりと希望を歌うことなんだ」、みたいなことは太志がよく口にするので。あとは絵本が好きだし、絵本みたいな歌詞を作りたいとも言ってるし、まさに太志が目指してるのはそこなのかなっていう。ちっちゃな子どもでもわかる単語で、それこそいかに本質を突けるかという、実は一番難しいことに彼は挑戦してると思う。それはすごいなと思って見てますね。
―― なるほど。このバンドの考え方はきっと、「オール・フォー・ソング」なんですね。すべては楽曲のためにあれ、という。きっとそれぞれに自我を抑えるところもあったでしょうし、このバンドで正しい居方をするための自分を探さなきゃいけなかったでしょうし。その戦いもあっただろうなと思いますね。
TASSHI デビュー直後は「オール・フォー・ソング」だったんですけど、そのあとにやっぱりロックバンドでありたいっていうか、世間の見られ方とのギャップに悩んだ時期もあって。「いや、俺らロックだし、演奏陣もしっかり立つぜ」みたいな。でも結局みんなで話し合いを重ねて、僕たちの存在意義というか、これからどういうバンドになっていきたいかって突き詰めると、「オール・フォー・ソング」が正しい姿なんだっていうふうに立ち返ったんですよね。そこから個人としては曲に対してのアプローチはガラッと変わりましたね。
太志 だからライヴも、騒ぐというよりはみんなそれを口ずさんでくれる、一緒に歌うっていうのが基本にある感じですね。ロックとかポップとか考え方はいろいろあるけど、それは置いておいて、大事なのは曲でハッピーになれたらっていうすげえシンプルなところなのかなあと。“虹”みたいに子どもでも歌える歌もあるし、親戚の子どもが、4、5歳で歌ってるって聞くと全然うれしいし。音楽通の人にほめられることもうれしいけど、それはまた違うんだと思えるように最近なってきました。自分ももう35だから、同級生も結婚していくし、「子どもに聴かせてるよ」とか言われると、自分たちがロックシーンの中にいるかいないかっていう問題ではなくて、生活の中に自分たちの音楽を取り入れてくれてる人がいるっていうのはハッピーだなあっていうか。それは勝ち負けじゃないなっていう。すげえ素敵だなって思いますね。これは偶然じゃなくて、俺たちが一番最初にやり方を選んだ時からそこに必然的に向かってたんだと思うし、すげえ健全だなと思いますけどね。
まわりからしたらロックじゃないかもしれないけど、涙を誘ったり、すごいハッピーになれる、そういうライヴが今できてる(OKP-STAR)
―― そこにニヒリズムが生まれる瞬間はなかったんですか?
太志 いや、あったと思いますよ。やっぱり憧れがあるじゃないですか。ロックっていうものに対する憧れ。かっこいいし、やっちゃいけないことをやってる感。ただ、僕らそういう奴らじゃないんですよ。不良でもないし、不良っぽくもないし、なんて言うんだろう、ロックバンドと呼ばれる人たちは生き方がそうなってるし、ステージの振る舞いもかっこいいなと思うけど、きっと普段からそうなんだって思わされる人も結構いて。僕らはそれをやろうとしても演技になっちゃうし、しかも芝居がうまくないんですよ(笑)。
全員 (笑)。
太志 好きでロックは聴くけど、自分がそれを放つ運命にはなかったんだなと思いますよね。たとえばBRAHMANとかめっちゃ好きだし。でも大好きなものに自分がなれるわけじゃないっていうか。大好きなものはそこにあるけど、自分が好きなものになるのではなくて、自分はもう生まれた時にもらったものがあって、それを磨いていくと――もちろん好きなバンドもあるけど、そっちじゃないほうに行くな、みたいなことは感じてたんですよね、この10年の間。だからロックが嫌いとか好きとかそういうものを超えて音楽好きだなって思うし。ライヴも好きだし、観るのも大好きだから。
TASSHI OKPとかね、そういう葛藤が一番あったんじゃないんですか?
OKP-STAR(B) まあ、あったかもしれないですね。生きてく上でその人の枠ってあると思うんですよね。俺らにも枠があるんだと思う。それこそ「俺だって負けねえよ、特にベースでは負けねえよ、俺ひなっちに対抗できるよ」とか思ってたんだけど(笑)、この前ひなっちと対談させてもらって、Aqua Timezっていうのはやっぱ目指すべき枠があって、それは今太志が言ったように、ちっちゃい子どもも歌ってくれる、そのお母さんも一緒に歌ってくれる、そういうことなのかなって。それはもしかしたらロックじゃないって思われるかもしれないけど、涙を誘うようなライヴだったりとか、逆にすごいハッピーで笑顔になれるライヴが今できてるから。そこの枠で、俺らはこういうことをやるべきなんだっていうのがわかってきて。ずっと、無意識のうちにそこに向かってたのかなってすごい思って。だから今は対抗意識はあんまりない。でも友達になりたいなとは思う(笑)。
TASSHI 最後可愛いな(笑)。
太志 なんで可愛いんだよ。友達になりたいって(笑)。
OKP-STAR 好きなのに会ったことない人もたくさんいるから(笑)。BRAHMANも太志から教えてもらってクッソ好きだし、会いてえなって思う。
TASSHI 仲良くなりてえなって(笑)。
OKP-STAR こういう人たちからは、俺らみたいなバンドがどう映ってんのかなってすごい気になるんだよね。もしかしてすごい嫌われてるかもしれないし。
TASSHI 出た、ネガティヴ。
大介(G) 根はネガティヴだからな。
太志 暗いよ(笑)。
OKP-STAR でも、聴いてほしいなとか思ったりもする(笑)。ちゃんとやってますから、って。
―― 今回の2枚のベスト盤を聴いて思うのは、まさに1曲1曲が、「自分たちとはこういうものである」と受け入れていく歴史でもあったんだなあという。 そして、その歴史がこのバンドを強くしましたよね。
太志 そういうふうに聴くとほんと意味深いというか。 なかなか振り返れないんですよね。「振り返ってどうですか?」って言われても、ひと言で言えないから。 でも続けていく理由があるから、もう尽きたっていう感じもしないし。でも今、めちゃくちゃ大事な時に入ってるなあって思いますね。 10周年ってお祭り感もあるけど、もっと強い曲、もっと強いライヴをして、お客さんと一緒にハッピーになりたいっていう。 だから新しいことはもう考えないですね。戦略とかもう通用しないじゃないですか。だから今まで自分たちが完成させた曲を信じることと、 これから作っていくものを信じて、この先5年なのか10年なのかわからないけど、1日1日そういうところを目指すんだなっていう覚悟になりましたけどね。