累計売上100万枚突破のDJ和、 最新MIXに見る「フェスと時代の関係性」

DJ和

 J-POPを連発する独自のプレイスタイルを確立し、各地のイベントや音楽フェスで大人気のDJ和。手がけているミックスCDのシリーズも、ついに売り上げが累計100万枚を突破した。そんな彼が第19作目『フェス、その前に』のテーマに選んだのは、その名の通り「フェス」。ROCK IN JAPAN FESTIVALやCOUNTDOWN JAPANなどで大観衆と共有してきた興奮をフレッシュに反映した1枚だ。収録されているのは、フロアを熱く揺さぶること間違いなしの40曲。強力なロックバンドの曲を中心に構成されている。これを聴けばフェスへ遊びに行くための準備が万全となるのはもちろん、現在の音楽シーンの潮流も肌で感じることができるはずだ。今作について彼に語ってもらったのだが、様々な鋭い分析も示される内容となった。

インタヴュー=田中大 撮影=鈴木公平

SNSとDJって相通ずるものがあるのかもしれない。「この曲いいよね?」ってかけて、みんなが「いいね!」を押すような感じ

――タイトルにテーマがわかりやすく表れていますね。

「とにかくわかりやすくと(笑)。これを聴いて気持ちを高めてフェスへ行ってもらえたらいいなと思っていました」

――ロックに特化したミックスCDは初ですか?

「はい。こういうものはいつかリリースしたかったんですけど、ROCK IN JAPANとかCOUNTDOWN JAPANとかに出させていただく中で、今年がそのタイミングだろうと。やはり時代的にも『J-POP』って言うより、何のジャンルなのかをこちら側から言うほうが受け手もわかりやすいのかなと。『J-POP』という言葉がハッキリしたイメージを持っていたのは2000年代までで、音楽がさらに細分化されてきた2010年代に入ったあたりからはわかりづらくなっているように思うんです。あと、僕はハロウィンとかフェスの盛り上がり方って、今の時代っぽいということも感じているんですよ。みんなで盛り上がって写真を撮るとか、楽しむことが最近のトレンド。音楽に関しても、ひとりで聴くより、みんなで聴いたほうが楽しいって気づき始めているんじゃないでしょうか。だから『フェス』っていうキーワードをわかりやすく示して、DJ和らしくど真ん中に攻め込みたかったんです」

――フェスやライヴのようなみんなで音楽を楽しむ場の存在感って、おっしゃる通りここ数年で一気に上がりましたよね。

「そうなんですよね。配信とかも含めていろんな形で音楽を手軽に聴けるようになった結果、『生で聴く』っていうことの価値が上がったのかもしれないです。みんな『あのバンド、生で聴いたんだよ』とか周りに言いたいし、その報告をSNSに載せたり、体験をシェアするようになってきているのが10年代なのかなと。僕もDJをやりながら、『これやばいよね?』『うん、そうだよね』ってお客さんと意思疎通をして、見つめ合っている感覚があります。SNSで好きなものや体験をみんなとシェアする行為とDJって、相通ずるものがあるのかもしれないですよ。『この曲いいよね?』ってかけて、みんなが『いいね!』を押すような感じですから」

――今回のミックスCDに収録されている全40曲は、まさしくお客さんが「いいね!」って盛り上がるものばかりだという印象です。

「この1枚で完結できるような強力な、間違いのないものにしたいと思っていました。『この80分くらいにフェスのすべてが!』というような。だから鉄板です。今回『鉄板フェス』っていうようなタイトルも候補としてあった気がします。このラインナップでフェスができたら、日本人全員が来るんじゃないですかね?(笑)」

――あり得ることです(笑)。

「僕、もしフェスを主催することになったら、『セットリストは、鉄板曲だけでお願いします。ずっと盛り上げてください』って言うかもしれないです(笑)」

――(笑)1曲目がKEYTALKの“MONSTER DANCE”っていうのが痛快ですね。いきなりテンションが上がりますよ。

「この曲を入れさせていただけることが決まった瞬間、『1曲目です』と思いました。この曲の若者の間の普及率は恐るべきものがありますよ。今の時代を象徴している曲というか。振り付けもありますし。踊るロックってこの数年の主流ですけど、この曲はまさしくそれ。みんなでひとつになれる力が、ものすごいです」

昔はすべてを作品に集約していたけど、今はすべては現場にある

――ダンスロックが求められているムードは、DJの現場でも強く感じています?

「感じています。やはり、みんな踊りたくて盛り上がりたいんだと思います。『歌いたい』っていうのももちろんあると思うんですけど、『踊りたい』っていう欲求がより強いのかなと。でも、あれってクラブシーンの『踊る』ともちょっと違うんですよ。『みんなでそこに居合わせる』とか『みんなで同じ振り付けをする』とかいうような『一緒に』っていうのが今の一番のキーワードになっているように思います。フェスは特に『アガりたい』っていうところにみんなが辿り着いている空間なのかもしれないですね」

――グッズでタオルが人気あるのも、「一緒に」を感じられるアイテムだからですかね? みんなで回すと、ものすごい一体感が生まれるじゃないですか。

「なるほど。あと、首に巻いたりもできますからね。自分なりのオリジナリティのある身に着け方をしつつ、みんなと同じ感じを楽しんでいるのかも」

――ライヴ前にバッチリ予習して、「この曲の時はこういう盛り上がり方」っていうのをチェックする人も増えているように思います。アニソンの現場で顕著ですけど、アグレッシヴな曲の時、みんなのペンライトが一気に赤色で統一されたりするじゃないですか。

「ライヴに行く前に映像を観て、『この曲はピンクか』とか、『“MONSTER DANCE”は、こういう振り付けなのか』とか調べて、実際のライヴの現場で『参加できた!』ってなっているんだと思います。アニソンの現場は特にそういうのが強いですね。だから、ペンライトを忘れてきたら絶望的な気持ちになるんでしょうけど(笑)」

――(笑)音楽を聴くって基本的には受動的な行為ですけど、「参加する」っていう能動的な部分が、どんどん求められるようになっているんですかね?

「そうかもしれないですね。お客さんも『自分が主役』っていうことをわかっているんだと思います。前はもう少しアーティストを主体に考えて、『そこにいられる自分』っていう感覚だったんでしょうけど、今は『アーティスト/お客さん/歌ってくれる歌』っていうのが同じ位置にいるなあっていうのを感じます。音楽が好きだと『聴く』だけじゃない体験をしたくなるものなんでしょうし。だからみんないろんなやり方を探しているのかも。『もっと楽しいやり方はないか?』って。あと、音楽シーンとしてもライヴの存在が大きくなっているというのは事実ですよね。CDを手に入れて『音楽を聴く』っていうのは、言うなればデフォルト。でも、その先にある一番の目的は『そこに行くこと』な気がします」

――アーティストでも作品を「ライヴへの招待状」みたいに言う人がよくいますよ。

「まさにですね。EDMもほんとにそれですよ。音源は名刺代わり。『こういう音楽をやってるから、ここに来いよ。俺がいるから』っていう感じだなあって僕は思っていて。昔はすべてを作品に集約していた感じもあったと思うんですけど、今はすべてが現場にある感じになっていますよね。特にロックは、間違いなくそうだと思います」

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