藤巻亮太 自身を解き放った、新たな名盤誕生!『日日是好日』全曲レヴュー

藤巻亮太

レミオロメンを活動休止してソロになり、アルバム『オオカミ青年』をリリースし、約2年のブランク(本人曰く「次に何をやっていいかわからなくなっていた」そうなので、そう言っていいと思う)を経てその間にアルピニスト野口健とともにヒマラヤやアラスカ、アフリカを旅したりした末に(その時に藤巻が撮った写真が『Sightlines』という写真集となって刊行されています)、次に自分がやることを見出し、レミオロメンのデビュー時のレーベルだったスピードスターに戻って1枚のミニアルバムと2枚のシングルをリリース、そして完成したフルアルバムが『日日是好日』である──流れをざっと書くとこのようなことになるが、この『日日是好日』、一体何がどうしたのかと驚くほどに、藤巻が「すべてを取り戻した」作品になっている。藤巻に歌ってほしい歌、作ってほしいメロディ、言ってほしい言葉が並んでいる。いや、「ほんとは言ってほしいんだけどこれは言わないだろうな」と思っていたものまで含めて音楽になっている。この素晴らしいアルバムを1曲1曲解説することで、今の藤巻亮太に迫りたいと思う。

テキスト=兵庫慎司

1. 花になれたら

デビューしたてか? 若者か? いや、レミオロメンの最初のデモCDですらここまで溌剌とはしていなかったぞ、と、一瞬耳を疑うほどブライトで高揚感にあふれたオープニングチューン。「君」が地球や自然とダイレクトにつながっているあたり、野口健とともに世界の秘境を旅した経験から生まれた曲なのかもしれない。《君が笑ってくれたなら/君が求めてくれたなら/何度でも僕は甦る/歌うよ 愛のメロディを》と聴き手を肯定し、《青春》というフレーズを自然に口にしているところにも驚く。


2. Weekend Hero

日々忙しく働いていて、身体も心もくたびれてしまっている人、でも週末は楽しみませんか?──と、歌詞を要約すると、なんだかものすごくありふれた曲みたいになってしまったが、聴くとまったくありふれていない。理性よりも本能と身体が前へ前へと突き進んでいるかのような疾走感がその「ありふれ感」を見事に反転させ、曲にリアルさを与えている。玉田豊夢(Dr)&山口寛雄(B)による、超テクニシャンがこの曲ではあえてパンクに走ったみたいな、バタバタと駆け抜けるリズムも素敵。


3. 回復魔法

『日日是好日』じゃなかったら、こっちがアルバムタイトルになっていただろう、と思わせる重要曲。のんきな感じも孕むミドルテンポのリズムも、(藤巻にしては)抑揚の幅の小さいメロディを軽やかに歌うボーカルも、ダサくてぱっとしなくてついてない日常を綴りながら《さあ行こう》と聴き手の背中を押す歌詞も、派手な曲とは言いがたいし、パッと聴くと重要曲っぽくないが、よおく聴くとこの曲の中に本作で藤巻がやりたかったことがすべて入っていると言っても過言ではないのではないか。


4. 日日是好日

アルペジオとキックだけの8小節のイントロに続き、他の楽器が入った8小節を経て《最悪と口に出しかけて》と藤巻が歌い始めた瞬間に「うわ、これ藤巻の書くすげえいいやつだ!」と確信する、タイトルチューン。藤巻亮太は「いいメロディだけどそんなアクロバティックなの、君しか歌えないって」という曲と、映画『モテキ』のカラオケボックスのシーンで歌いまくられたりするくらい、みんなに歌われる曲の両方を書くソングライターだが、この曲は後者の最上級。平易な言葉でポジティヴィティを綴る詞も素晴らしい。


5. 8分前の僕ら

ネスレのCMソングになり、昨年に先行リリースされたシングル。切々と歌い上げるラブバラード(もしくは友情の歌)で、《僕に出来る事は何かないかい/片方の荷物でも持たせてよ/冗談の一つでも言わせてよ》というラインが耳にぐっさり刺さるのはなぜだろう、と考えたら、己の無力さなど承知でそれでも君が少しでも良くなるようにしたい、という気持ちが表れているからなのだろうという結論に達しました。《悲しいのにそばにいれない時/楽しくても一緒に笑えない時/胸の中で君を想っているよ》というストレートなラインも、とてもいい。


6. 夏のナディア

《カエル》《セミ》《夕立》などのワードを使って夏をモチーフにした、軽やかなポップチューン。ラブソングともとれる体裁で書かれているが、夏とか自然とかそういうもの自体に対して捧げた曲ではないか、という解釈もできる。何かを好ましく思う気持ち、愛する気持ちが自分の「生きていこう」という思いのエンジンになる、というようなことが、この曲で歌いたかったことではないか。これも野口健との世界の旅から生まれた曲かもしれない。違うかもしれないが。


7. My Revolution

極めてシンプルなイントロ&Aメロからじわじわ温度が上がっていき、サビでドラマチックにすぱーんと弾ける、藤巻の必殺技、得意中の得意、と言える曲。かつては何にも考えずに書けていたこういう曲を一時期そう簡単には書けなくなって、でもまたスッと書ける境地に立ったのではないか。この曲もとてもポジティヴな歌詞なので、歌で言いたいことにひっぱられてこのメロディとアレンジが生まれたのかもしれない。サビ後の《nanana…》、ライヴでシンガロングの渦になること必至。


8. 大切な人

シンガーとしてNIVEAのCMソングを歌ってほしい、という依頼が来て、そのCMで使われる部分(「♪まもりたい~」のところ)しか曲がなかったのを、前後を自分で足して、1曲の形に仕上げたもの。なので、その部分だけ本来の藤巻メロディではなかったはずなのだが、なんの違和感もない1曲になっていることにまずは驚く。また、そういう成り立ちの曲であるがゆえに超ストレートなラブソングになっているのだが、それもなんの違和感もなく聴けて、さらに驚く。


9. かすみ草

これは春の曲。四季の歌、多いですね。やはり、野口健との旅は大きな創作の源になったのだと窺える。ただ、自然を単に「いいもの、素晴らしいもの」みたいに歌うのではなく、その自然の力や自然の存在自体に、自分が生きていくことのできる理由を見出しているところが、聴き手にずっしりとした手応え、耳応えを残す理由だと思う。それから、プログレみたいなコード展開&メロディ展開、これが藤巻の得意技のもうひとつ、「いいメロだけどアクロバティックすぎて藤巻しか歌えない」タイプのやつです。


10. 春祭

タイトルそのまま、春のお祭りの曲。祭りのニュアンスを出すためか、いわゆるロックバンド編成ではなく、数種類のパーカッションやジャンベなどを用いて演奏されていて、ラテンとか民族音楽方向の、華やかで楽しくて人肌なアレンジがなされている。祭りという非日常と日常の対比ではなくて、人生そのものが祭りなんだ、それを祭りとして生きるか生きないかはその人次第なんだ、というようなニュアンスが込められた曲のように思う。なおこの曲のメロディもかなりトリッキー。藤巻のコンディションの良さが漂う。


11. おくりもの

父と母への感謝と愛をそのまんま歌ったスローチューン。《父のシワが刻む戦う誇りの意味/母の手のぬくもり大切なおくりもの/ありがとうが溢れ出すよ》そのまんますぎて、歌詞だけ読むとちょっと戸惑うが、あたたかくて大きなメロディに乗っかると、言葉がシンプルな分、リアルで切実な歌として耳に飛び込んでくる。AOKIのCMソングとしてどんぴしゃとも言えるがその範疇に留まらない、末永く歌い継がれていきそうな美しい曲。あと、短いイントロ、一瞬だけオアシス感あり。


12. ing

スピードスターレコードに復帰して最初にリリースしたシングル。つまり前作ミニアルバム『旅立ちの日』よりも前の曲になるわけだが、ここで改めて聴くと、なぜこのアルバムのラストがこの曲でなければならなかったかがよくわかる。いかに生きていくか、いかに進んでいくか、いかに歩んでいくか、なぜそのように「生きよう」「進もう」「歩もう」と思って前を向くことができるのかについて、自分と現実を見つめ、考え、そして生まれた言葉がメロディに乗って飛翔する曲。特に《サヨナラの続きを歩いた/始まりの終わりを迎えた》というラインにグッとくる。


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