イトヲカシ メジャーデビュー、フェス出演──2016年、夏を語る!(2)
バンドやって解散して、それでもまだ音楽やりたいっていうのは……一生嫌いになれないんじゃないかなって(宮田)
── そういえば、『捲土重来』を出した後に、1stワンマンライブハウスツアーを回ったじゃないですか。あれはどういう経験でした?
伊東 結構意外だったのは、「イトヲカシってワンマンツアーを回ったことがなかったんだな」っていう。ずーっと路上ライブを回ってたから、その意識があんまりなかったんですよ。でも、お互いバンドをやってた時の路上ライブって、ライブハウスにお客さんがいないからっていうことで、音楽に興味ない人の目をもっと向けたい、っていう気持ちでやってたんですけど……イトヲカシの路上ライブって、ちょっとニュアンスが変わってきて。
── というと?
伊東 感謝を伝えたかったりとか、「なかなかそこから東京とかの大都市に来るのは大変だよね」っていう人たちのために、こっちから行ってライブをする、っていうようなことだと思うので。昔だったら、「ライブハウスに呼ぶために路上ライブをやる」だったんですけど、今はもう全然違う、同じくらいの魅力があるんじゃないかと捉えていて。ライブハウスの魅力と、路上ライブの魅力とは、主従関係はないと僕は思ってるんですよ。ライブハウスが路上ライブよりいいところは、どう考えても「音がいい」っていうところで。CDに一番近い音で、もしくはCDを超える気持ちも伝えられるから。それも嬉しかったですね。ライブハウスでもお客さんが笑顔になってくれる、こっちのイトヲカシも好きになってくれるんだなって。
宮田 ライブ1本1本、プレイの面でも、お客さんとの熱の交換っていう面でも、路上ライブとはまた違う形でできたし。ファイナルに至るまでに、1本目と最後の間では全然違うものになったと思うんですけど。すごく手応えがあったというか、闘えるんじゃないかな、っていう自信をつけることができるツアーだったので。これからも二軸でやっていきたいなって思いましたね。僕の場合は、そもそも路上とライブハウスではプレイする楽器も違うんで。やっぱりベース好きだなって思ったし──別にギターとキーボードが嫌いなわけでは全然ないんですけど(笑)。
── それって、イトヲカシがなぜ1曲1曲全部に全力投球なのか、っていうところにも通じると思うんですけど。やっぱり常に「アウェイのフィールドで、知らない人たちにも伝えていく」っていうモードがあるんですよね。音楽ってもっと楽しくて、曲を知ってる/知らないを越えたマジックを秘めてるものなんじゃないの?っていう。
伊東 それ……マジいいですよね。僕もミュージックマジックだと思っていて。魔法って、変えられないと思ってたものをパッと変えられるものだと思うんですよ。絶対にあるなと思うのは、気持ちを変えてくれる──落ち込んでる気分ってなかなか変わらないけど、音楽を聴くことによって気分が変わる瞬間を、僕自身も何百回、何千回と経験してきたので。アホだなって思われることも結構あるんですけど……世界を変えられる力があるんじゃないかって、ずっと信じてるんですよね。平和にするのって、お金の力とか政治の力とかあると思うんですけど、僕はそれと並んで、音楽もすごく大きな、ひとつの力になれるんじゃないかなと思っていて。
── あと、自分たちのホームの環境に甘えないというか、「自分たちを知ってる人だけ楽しんでくれればいいんだ」っていう意識が皆無ですよね。
伊東 逆に僕は、よく来てくれるお客さん、特にワンマンライブに来てくれるようなお客さんが、一番厳しい目を持ってる人たちだと思っていて。僕らのパーソナリティってだいぶ見透かされてると思うし、ちゃんとチケット代を払ってわざわざ来てくれてるわけですから。そういう場所で、音楽への情熱が1mmでも抜けたような音は、僕は出しちゃいけないと思ってますね。割合の差はあれど、みんな音楽は好きだと思うんですけど。そんなに好きじゃないなっていう時に「俺たちは音楽大好きだから!」って言っても、虚しく響くんじゃないかなって。めちゃめちゃ上手く隠したとしても、それは寿命が伸びるだけで。歌詞でもステージでも、嘘をつくことこそ、やってはいけないことかなって感じますね。
宮田 まあ実際、これだけやっても嫌いにならないっていうことは、好きなんですよね(笑)。バンドやって解散して、それでもまだ音楽やりたいっていうのは……一生嫌いになれないんじゃないかなって。どうやったら嫌いになれるのかな?って(笑)。
いい曲を書いて、いい演奏をして、お客さんに「いいね」って言われたら、それが第一の幸せだなと思う(伊東)
── これだけ音楽に夢を見ていて、メジャーデビューも果たしてますけど、ライブを除けば顔出しもしていないわけで。「自分たちを見てほしい」とか「俺たちが有名になりたい」っていうわけではないんですよね。
宮田 「人気者になりたい」とか「脚光を浴びたい」とかではないかもしれないですね。
伊東 いい曲を書いて、いい歌詞を書いて、いい歌を歌って、いい演奏をして、お客さんに「いいね」って言われたら、それが第一の幸せだなと思うんですよね。それってこれから先も変わらないだろうし……そう言われて、そういうスタンスで僕たちはやってきたんだなって、今気づかされました(笑)。
── (笑)。でも、それはある意味、バンドを解散してどうしようと思ってたところを、ほかでもない音楽に救われたっていうところで、一生懸命音楽に対して恩返しをしてきたっていう側面もあるだろうし。で、その段階を超えて、「音楽で夢を見られるんだよ」って伝えていくステージに入ったっていう。
伊東 ああ、そうかもしれないですね。でもそれって、今まで通りに、目の前のことを一個一個必死にやっていくしかないんだろうなって思いますね。戦略とかは、今までも全然考えてこられなかったから……「戦略的にやってるでしょ?」って言われることもあるんですけど、全部偶然で。そういう部分はもう、全部お任せで(笑)。それでもう、あとは音楽にどれだけ没頭できるか、それって僕らにとっても幸せなので。そういうふうになれていったらいいなと思いますね。
── このシングルの後もどんどん曲はできている?
伊東 どんどんできてます! 全国いろんなライブ、すべてがヒントになっていて。音楽でインプットしたものを音楽で出すっていうのもすごく素敵なんですけど、路上ライブだと、普段なかなか行かないようなところに行ったりするので。そういうのも相まって曲ができ続けるっていう、すごくいいサイクルを描けてると思うんですよね。死ぬまで成長したいですね──とか言って、次の取材の時とか、急に嫌なやつになってたりして(笑)。
宮田 「いやあ、売れた売れた!」とかね(笑)。
伊東 「この間の記事、マジよかったよぉ!」みたいな(笑)。
宮田 ……そんなふうになったら、窓から突き落としてください(笑)。僕らはもう、そうそう変わることはないと思いますね。
── (笑)。「夢を叶えることで、新しい夢がどんどんできていく」っていうイトヲカシのサイクルは、終わる気配がないですからね。
伊東 終わらないですね。終わってほしくないですね。
宮田 終わっちゃったら、死ぬしかないんで。
伊東 最終的にはさ、死ぬ時に自分が納得できる死に方っていう。それが最終目標なのかもね。
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