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歌ってる自分を愛せてなかったんですよ。お客さんが『歌詞太郎さんの歌いいですね』って言うのをいちいち疑ってて(笑)
──繰り返しになりますが、"rebirthday"について言うと、あの曲は戦ってる曲なんですよ。
「戦ってました!(笑)」
──(笑)でもフラストレーションをフラストレーションとして出しちゃダメなんだよね、伊東歌詞太郎という歌い手はね。
「でも"rebirthday"は出ちゃってたと思いますね(笑)」
──そして、『二律背反』を聴いた時に思ったのは「素直になれたのかな」ということだったんですよ。
「そうかもしれないです。1枚目の時より『もっと歌が好きになれた』っていうのはこれだけは自信を持って言えます。『上手くなった』っていう感覚は一切ないんですけど、『2013年の自分より今の自分のほうが絶対に歌が好きだな』っていうのは言いたいことではありますね」
──今の状態を僕の言葉で言うと「歌が近くなった」って感じですね。青くさい表現だけど。昔は「歌ってる自分って好きだ」っていう感じだったよね。
「いや、俺、歌ってる自分を愛せてなかったんですよ」
──逆だったか。
「そうなんですよ。お客さんが『歌詞太郎さんの歌いいですね』って言うのをいちいち疑ってて(笑)、『歌を愛されたい』って気持ちは今でもあるんですけど、『歌詞太郎さんの人柄も含めて好きです』って言われるとそこは全然受け取れなくなってしまうんですよね。今は受け取られるようになれたんですけど、昔は素直になれなかったんですよね」
──今は「歌っている自分」がどう思われようとまあいいかなあというかさ、そういう素直さをすごく感じるよね。
「無心なんですよ(笑)。無心になりたいし、『正直でありたいな』っていうのはすごく思うんですよ。ステージの上でも、普段でも」
──すごく無防備じゃない? このアルバム。歌詞太郎くんが作った曲は特に。
「だから『二律背反』っていうタイトルを付けちゃったんですよ(笑)」
──そういうことか。じゃあタイトルの理由を解説してもらおうかな。
「今の自分はまだ曲作りに関しては未熟なので、心のなかにあるメロディとか心のなかにある歌詞しか今は出せないんです。ほんとにおっしゃる通りで、無防備な伊東歌詞太郎がそこにいるんだろうなって思っちゃうんですよ。今でも思ってるし。だから今までの歌い手としての伊東歌詞太郎が好きな人がこれを聴いた時に『なんだよ、これ』って『見たことないし、こんなの見たくないよ』って思われるかもしれないって思ったんです。『二律背反』って異なる命題が同じだけの説得力を持って並び立ってる状態のことなんですよ。でもこれってひとつのことなんですよね、根っこで。ひとつの物なんだけど表面上では矛盾してる。だから矛盾じゃないんですよね(笑)。それで『二律背反』って付けたんですよね。それはもう願いというか、『根本はひとつなんだぜ』っていう」
──なるほど。前作のタイトルはなんでしたっけ?
「『一意専心』ですね」
──だよね。あの作品は「僕は一意専心なんだ」と自分で定義しないと「一意専心」って思えなかった歌詞太郎くんのモードを示してますよね。「これは一意専心な気持ちで歌ったものです」って自己申告する。
「なるほど。でもそうかもしれないな。あの時は走ったというか、駆け抜けていったんですよ。あのアルバムを作った時。右も左もわからないから自分にできることっていつも通り歌を全力で歌うことなんですよね。だからあのアルバムって『歌を歌うこと』でしかなくて、自分のなかで。歌を歌うことにだけ専心したアルバムなんですよ。あの時必死だった伊東歌詞太郎があのアルバムにはパッケージされてるなあっていうのは感じてて『一意専心』だったんすよね。良くも悪くも(笑)」
──でもさ、「『二律背反』なんですよ、この感じ」って言える自分のほうが素直だと思わない?
「半分さらけ出してますからね(笑)」
──自分で、その状態を受け入れられるわけじゃないですか。いろいろあるんだけども、"僕だけのロックスター"なんてすごいですね。
「そこえぐっちゃいますか(笑)」
──(笑)この曲に僕は伊東歌詞太郎を見たんですよ。
「この曲、実は自分が主人公じゃなかったんですよ。19歳の、大学に入ってバンドを組みたてで『絶対メジャーいこうぜ』みたいな男の人を描きたくて歌詞に書いてたんですよ。で、これをインターネット上にボーカロイドとしてアップロードしたんですけども、そしたらあらゆる人から『これは歌詞太郎さんじゃないと内容的に歌えないです』っていうことを言われて『そうかなあ』と思って見返したら、最近素直な自分がいるから、『これは自分がただ単に出ただけなんだな』っていうふうに思ったという(笑)。今は『自分の曲である』って思います。だから大事な曲です、これは」
僕は世界で一番のロックスターになりたいんですよ。世界一歌が大好きな人間になりたくて毎日歌の魅力とかを考え続けるってことをして、世界で一番歌が好きになりたいんですよね(笑)
──この曲がいいなあと思ったのは、「僕はロックスターにはなれないんだ」と歌っている曲だからなんですよ。「僕はロックスターになれないんじゃないか」という歌は、1年前の伊東歌詞太郎は絶対歌えないと思うんですよ。
「もっと言うと『世間一般の人間が言っているロックスターに自分はなれない』と。ロックって音楽のジャンルじゃないと思ってて、最早生き様だと思うんですよ。『10人の人間がいたら10人のロックがある』って、自分のなかでロックというものがわからないから決めてしまおうと思って、自分のなかでのロックっていうのは歌が大好きでしょうがない人間のことがロックスターだと思ってて。僕は世界で一番のロックスターになりたいんですよ。世界一歌が大好きな人間になりたくて毎日歌の魅力を考え続けるということをして、世界で一番歌が好きになりたいんですよね(笑)。そういう決意の『君たちの言っているロックスターにはなれないけど、自分のロックっていうものはこういうものなんだっていう信念を持って歌おう』というふうにあとで曲に気付かされました(笑)」
──この曲を作った時はどういう状態だったの?
「ロックっていうものを考えたことが人生で何度もあるんですよ。でも絶対結論が出ないんです。『ロックってなんだろう。きっと音楽じゃないんだろうな』って思って。『ロック』っていう言葉自体に夢を見る自分がいるから、19歳の、かつ自分じゃないロックに憧れた人間がどういう気持ちなのかなっていうふうに考えて歌詞を書いて。でもあとで『ああ、これは自分のことを書いたんだ』って曲に教えられたっていう」
──これが言えてスッと荷物が下りた感じはあったんじゃないかなあ。
「そうですね。歌ってる時、もう恥ずかしくないですからね。初めてライヴでやった時は恥ずかしかったんですよね(笑)。自分の内面をここまでさらけ出すっていうのは。俺、ほんとに音楽以外やってこなかったんですよ。音楽でしか人生経験も積んでないし、音楽のことをここまで人に語るっていうか歌にしたり、こんなにストレートに書いたこともなくて。だからちょっと恥ずかしかったですね。世間一般で『この人ロックだね』って言われてる方へのアンチテーゼも実はあって、その人みたいには自分は絶対なれないんですよね。じゃあ『自分はロックスターになれないのか?』っていった時に『違う』と。いろんなロックがあって、どぎつい言い方をすると偽物だってあるかもしれないし、『ロックである』っていうことを身にまとってるだけで本質的じゃないものだってあるんじゃないかと考えた時に『自分にとってのロックを決めちゃおう』って思ったので。やっぱり自分はいわゆるロックスターにはなれないことを受け入れたのは確かですね」
──僕は"rebirthday"とこの曲は対になってる感じがするんですね。
「いや、そうかもしれないですね。言われて気付いたんですけど(笑)。納得がいくというか、『強がり』と『受け入れ』っていう二極な感じがします」
──まさにそう思うんですよ。
「作ってる時は気付かないもので、自分が『強がってる』とか『受け入れてる』ってことはあまり考えずに作ったんですけど、やっぱり人に聴いてもらうとこういう新しい発見があるなっていうのは今思いました」
「うた」とひとつになりたいんですよね(笑)。「将来何になりたいの?」って言われたら「うた」なんですよね。よくわかんないと思うんですけど(笑)
──この作品はオリジナル曲がすごく象徴的な作品ですよね。伊東歌詞太郎自身のメロディと自身の言葉が詰まっていて、それぞれがすごく素直だなあと僕は思ったんですよ。でも、歌い手としての伊東歌詞太郎もいいですよね。そのなかで象徴的だなと思った曲が"Replica"なんですが。この曲はどういう経緯でできた曲なんですか?
「40mPさんに書き下ろしていただいた曲なんですけども、今回書き下ろしをしてくださった方が3人いらっしゃるんですけど、3人とも同じことを言ってるんですけども、『自分なりの伊東歌詞太郎を考えて歌詞を書いた』『メロディを作った』っていう。40さんから見た僕がそこにいるんじゃないかなと。『たぶん、こういうふうに見えてんだろうな』って自分も思いました(笑)」
──この曲は40mPさんが伊東歌詞太郎のことを愛情深く見つめて書いた曲なんですよね。その曲が"Replica"ってタイトルなんだよ。これ、すごい話だと思わない?
「はい。きっと彼のなかで『もしかしたら、どっちかがレプリカだ』と思ってるのかなあって思いますよね(笑)」
──この曲、歌詞がむちゃくちゃいいんですよ。《この羽がきっと作り物だと知ったって/歩き続ければいつか風が吹いて/僕の背中を押して(中略)/また大空へ羽ばたける/その日を信じてる》って、「伊東歌詞太郎はこういう人だ」と思ってるわけですよね。
「っぽいですね(笑)」
──このフレーズとさっきの「ロックスターにはなれない。でもそこから始めるんだ」っていう概念は一緒だと思うんですよ。「作り物だと知ってたって、それでも羽ばたけば辿り着けると信じてる」と「ロックスターになれないよ。だけど、俺の思うロックスターはこうなんだよ。それで歌い続けるんだ」っていう。「自分が見た自分」と「人が見た自分」が一緒になっているわけだよね、今は。これはすごく大きなことだと思う。要するに、"rebirthday"の頃の伊東歌詞太郎が望んでた状態でしょう。
「だから最近、前の仲間が連絡をくれるようになったのかもしれないですね(笑)。でもわからないです、いいのか悪いのかはまだ自分でも判断がつかなくて」
──じゃあ、"rebirthday"の頃と今の自分を比べると、どうですか?
「ひと言で言ったら、今のほうが俺自身が『歌』っていうものそのものを好きなのは間違いないので。『お客さんに歌を聴いてもらう』とか『CDで歌を聴いてもらう』ことって自分が歌に対して、意味がわからないぐらいの愛情を持っていないとダメだと思ってるんすよ。そういう意味では"rebirthday"の頃の自分よりも今の自分の歌のほうが俺は好きですね(笑)。これをお客さんがどう捉えるかっていうのはまた別なんですけど、俺自身は今の歌のほうが好きです」
──冒頭の話に戻るけどね、「歌う」という状態がすごく近くなっているよね。
「すっごい抽象的だし、よくわからないと思うんですけど、『うた』とひとつになりたいんですよね(笑)。『将来何になりたいの?』って言われたら『うた』なんですよね。よくわからないと思うんですけど(笑)」
──ははははは。
「これはずっとあった感覚なんですけど明文化できてなくて、ふとした時に仲良い奴と音楽の話をしてて、武道館はそいつも俺も一緒に『いつか立ちたいね』って話をしてるんですよ。でも『それを達成したあと、何が目標なの? 歌詞太郎さんは』って訊かれた時になんにも考えないで『歌になりたいんだよね』ってポロッと出た時に『これだ!』と思って。『明文化できたな。歌そのものになりたいんだ』っていうふうに今は言えるっていうか。そうなんですよ、『歌』になりたいんですよね。よくわからないけど」
──うーん、その言葉を自分なりに翻訳してみると、「歌になりたい」っていうのは「歌っている時の自分」を最大限濾過したいってことだと思う。歌っている自分の自意識や「今、俺はこういうふうに歌ってる」っていう意識を全部ゼロにした状態でも歌が出てくる状態にしたいってことでしょ。
「ああ、ほんとにそうなんですよ、無くしたいんですよ(笑)。4分半の曲があったら、4分半全部無心でいたいんですよね」
──ただ体を通って歌が出てくるっていう状態にしたいわけだよね。
「したいです! そうなりたいんですよね。そうなれたら、たぶん世界で一番歌が好きな人になれるような気がするんですよ」
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