孤高の1stフルアルバム『東京物語』
全曲試聴&レビュー
孤高のシンガーソングライター、lukiがリリースする初のフルアルバム『東京物語』が素晴らしい。その変化は、何よりも「音」で表現されている。それこそブルースハープを基調としたデビュー時のサウンドからは一転、今作では最新鋭のEDM、2010年代型のポストロック、そして硬質でミニマルなバラードなど、果敢な音楽的チャレンジを随所で感じることができるのだ。それでいてlukiが描く徹底したリアリズムは、今作でもさらに鋭さを増している。これまでと同様に、彼女の書く歌詞は、予想しなかったような角度から世界の普遍を暴きだしてしまうのだが、今作はそんなlukiの「言葉の人」としての才能も存分に堪能することができる。
今回RO69では、この傑作『東京物語』の全曲視聴を実施し、各曲のレビューを掲載します。また後日、luki本人のインタヴューも行う予定なのでこちらも是非心待ちにしてほしい。
文=徳山弘基
1st Full Album『東京物語』
- 2014年11月19日(水)発売
- RDV-0019 ¥2,000/+税
01.東京
今回のアルバム・テーマを象徴する1曲。この都市に生まれ、この街で育ったlukiが描く「東京」は、甘美な幻想でもなければ、安っぽい郷愁でもない。サビの《他に帰れる場所なんてない/いつもただの東京》というフレーズが、最新鋭のEDMサウンドとともに強固なリアリティを突きつけ、そして『東京物語』の幕開けを宣言する。
02.観覧車
基本的には「別れ」をテーマにしていながら、曲調は非常にポップで、メロディもひたすらキャッチー。頂上まで昇り、そこから落ちていく観覧車の動き、そしてその密室性を、人生のドラマに喩えた歌詞が素晴らしい。彼女のポップな文学性が光る1曲でもある。
03.蝶が飛んだ
前2曲のダンスビートからは一転し、ギターのアルペジオとアコギの音色から始まる今作では、lukiの内面世界が、美しい蝶をメタファーにしながら昇華している。硬質でありながら透明感を感じさせる彼女の歌にも注目したい。
04.曖昧なファンタジー
「ファンタジー」という言葉から連想するキラキラのポップチューンとは無縁。海外のインディー・ロックを彷彿とさせるミニマリズムを極めた1曲であり、だからこそ逆に、彼女特有の「ポップ感覚」が見事に表現されたナンバー。
05.パラレル・ワールド
あなたと私の「世界」という巨大なテーマを歌いながらも、そこに哲学的な難解さはなく、むしろ不思議な温かみすらも感じさせてくれる名曲。とりわけ《ねじれた時空 壊れてもいい/あなたを愛し続ける為なら》という一節が聴くものの胸を打つ
06.夜の国のアリス
ウサギを追いかけ、穴に落ちるまでは本家と同じストーリーを辿るが、そこから展開される詞世界は、現代を生きる我々の「ダークファンタジー」が的確に、そして見事に表現されている。彼女の詩人としての才能が凝縮された1曲だ。
07.深淵の揺らぎ(inst.)
アルバム収録曲では唯一のインストゥルメンタル。lukiが吹くブルースハープを基調としており、どこかエスニックなギターとリズムが絡み合うという、過去作になかったような新展開。アルバム全14曲のちょうど真ん中に位置する。
08.こぼれる詩
アルバム収録曲中、lukiのディープな世界観が最も露になった1曲。サウンドも同様であり、ヘビィなビートとダークなギターフレーズがひたすら反復していく構成は、リスナーを歌の深淵へグイグイと引き込んでいく。
09.KISS OR KILL
今作『東京物語』の心臓部と言っても過言ではない白眉のロックナンバー。《シェルターはいらないの》というlukiの宣言は、まるで鎧を脱ぎ去った戦士のようでもあり、そんな彼女の攻撃性が疾走するビートと切り裂くようなサウンドにおいてストレートに現れている。
10.モノクロームの恋人たち
歌詞のほとんどが客観的な事実と情景描写のみで構成されているのにもかかわらず、恋愛のリアルと男と女の本質を表現してしまうlukiは、やはり只者ではない。余計な音を削ぎ落とし、ひたすら彼女の歌を引き立てたサウンドメイクも素晴らしい。
11.クリームソーダ
ピアノとストリングスが交錯する美しいイントロでスタートする今作のテーマは、《物語はクリームソーダ 甘く弾け最後に薄く濁る》というサビの一節に収斂していく。どこか慈愛に満ちたようなlukiの歌声は、アルバム収録曲中で最も透き通って聞こえる。
12.四角い箱にいた頃
どこか変則的なビートとプログレッシブな展開によって、アルバム収録曲においても独特の輝きを放つ1曲。「デモ隊」「救急車」「クリーム」「チェリー」という言葉が1曲の中に混在し、それでいて物語の骨子を形成している点がなんともlukiらしい。
13.揺れる梯子
これまでlukiの楽曲ではあまり用いられなかったシンセの音色がとても新鮮。lukiの歌声は、非常にしなやかで、打ち込みのビートと相まって、まるで地上と天をつなぐ「梯子」の役割を担っているようだ。今作の音楽的なレンジの広さを印象づける1曲。
14.100年後のあなたへ
アルバムの最終章を飾るのは、以前からライヴでも披露されていた“100年後のあなたへ”。ただ当時からアレンジは劇的に変化し、非常にハイクオリティなEDMナンバーへと生まれ変わった。《100年後 あなたの受け取ったものが 希望で溢れてますように》という言葉で締めくくられる今作『東京物語』。絶望でもなければ、諦念でもなく、まさに希望を残して、その幕を閉じる。
「luki 『東京物語』リリース記念 無料招待ライヴ」
- 2014年12月9日(火) SHIBUYA LUSH
- OPEN 19:00/START 19:30
lukiオフィシャルサイトにて、無料招待応募受付中。
提供:ランデブーレコーズ
企画・制作:RO69編集部
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