変拍子を操る未曾有のアイドルユニット
Masion book girlとは?(2)
ブクガは、何かをはっきり決めてこうなったわけではなく、それぞれの色を出した結果、こうなった
――ブクガの独特なスタイルは、サクライさんを含めたクリエイターの方々や、スタッフのみなさんと一緒に手探りで少しずつ形にしてきている印象がするんですけど、その点に関してはいかがですか?
コショージ そうなんだと思います。昔のアイドルさんはガチガチにコンセプトが固められていることが多かったと思うんですけど、手探りでいろいろ作っていくところは今風なのかもしれないですね。個々のメンバーを尊重して頂いていますし、自分たちで作っているところも結構大きいと思います。「ワンマンライブでやりたいことがあったら言ってください」とか「ミュージックビデオはどういうところで撮りたい?」とか訊かれますから。
矢川 私は歌い方に癖があるみたいで、「その語尾の感じいいね」と言われて、レコーディングの時に「葵ちゃんのあの感じで歌って」と言われたことがあるんです。そういうのも手探りで出てきたことなんでしょうね。
井上 ブクガは、何かをはっきり決めてこうなったわけではなく、それぞれの色を出した結果、こうなったということかもしれないです。
和田 「あなたはこうして」というのを強く言われないことによって、自然とメンバーそれぞれのものが出ているのがMaison book girlなのかもしれないですね。
――なるほど。では、メジャーデビューシングル『river (cloudy irony)』のお話に入りましょう。“cloudy irony”は、不思議な昂揚感を生み出す曲ですね。アッパーに盛り上がるのとはまた別の、靄がかった空間に包まれながら感じるような昂揚というか。
コショージ 《曇り空の切り傷は》から「ぱっ!」と広がるような感じとか、独特なのかもしれないですね。
矢川 『bath room』(初の全国流通盤となったミニアルバム。2015年9月リリース)の曲は、初めて聴くと盛り上がりのポイントが分かりにくいところもあるんでしょうけど、“cloudy irony”は、分かりやすさがあると思います。
和田 “cloudy irony”の仮歌が入ったものを聴きながら歩いていたら、すごい綺麗な天気雨になったことがあったんです。私はそれ以来、大好きになっちゃっています。明るいようでいて風情のある曲だなと感じています。
井上 晴れ間が今までの曲の中で一番見えやすい感じなんですかね? まあ、晴れ間があるとはいえ、曇っていますけど(笑)。
矢川 一番明るい地点が、独特なのかも。普通のアイドルさんの曲の一番明るい地点を真夏のめっちゃ天気の良い日だとするなら、ブクガの場合は秋の涼しい日の「快晴だな」くらいの感じなんだと思います。
――「秋の涼しい日の快晴」って、わかりやすい喩えですね。ブクガの歌詞は、どれも幻想的な雰囲気がありますが、こめられている意味に関してサクライさんが何かおっしゃることはあります?
和田 「これはこういう意味だよ」というような説明をサクライさんがおっしゃることはないですね。質問しても「自分たちの解釈でいいんだよ」とおっしゃっています。
コショージ “cloudy irony”と“karma”に関しては「これは自分たちの言葉として歌わないといけないから」とボイトレの先生がおっしゃったので、メンバーそれぞれなりの解釈は、あるんだと思います。
和田 でも、4人で解釈を確かめ合ったりはしていないです。聴いてくださるみなさんにも自由に受け止めて頂きたいです。
ポエトリーリーディングは、詩の読み方が少しずつわかってきて面白さを感じるようになった
――2曲目の“karma”もリスナーそれぞれの解釈があるでしょうね。でも、猛烈に熱いエネルギーが核にあるのを感じるというのは、大半のリスナーの共通したものかも。カナダでモッシュが起こったというのも納得です。
和田 これは今までのブクガにはなかった感じの曲かもしれないですね。今までで一番速い曲ですし、民族音楽っぽい音が入っているところも独特だと思います。
――この“karma”がまさにそうですけど、ブクガの曲はリスナーの本能をくすぐるような感触がありますよね。エレキギターとかの華々しいパワーで盛り上げるというよりは、打楽器の音色や不思議な残響感やノイズっぽい音とかでゾクゾクを醸し出す方向性ですから。
コショージ ブクガの曲は、マリンバの音がよく入っているんですよね。
矢川 使われている音階も独特なんだと思います。
――特徴といえば、ポエトリーリーディングもそのひとつではないでしょうか。今回も“14days”が収録されていますが、これは“cloudy irony”と“karma”とリンクするように感じられる詩が印象的でした。コショージさんの詩ですよね?
コショージ はい。「“cloudy irony”と“karma”に通ずるような感じがあると良いよね」とサクライさんがおっしゃっていたので、それを踏まえてストーリーを考えました。あと、今回のタイトルの「river」もリンクさせていて、「この2曲の中に流れている川は同じ」みたいなことも想像していました。
――14日間の物語を描いていますけど、「拾ってきた物が何なのか?」に関しては明言されないから想像力がすごく刺激されますし、途中で語り部の視点が切り替わるように感じられる仕掛けもワクワクしました。
コショージ ありがとうございます。私は童話の怖い話みたいなものが好きなので、そういうイメージで詩を書くことが多いんです。
和田 “14days”は、今までの中で一番怖いと思う(笑)。
コショージ ぜひゾクゾクして頂きたいです。
矢川 《蛇口をひねり》というのが私のパートなんですけど、レコーディングの時に関西弁のイントネーションが抜けなくてメンバーに笑われたことが個人的な思い出になっています。《蛇口》ってもう言いたくないです(笑)。
井上 ポエトリーリーディングは、最初の頃はライブで歌う曲が少ないからやっていたところもあったんです。でも、今は詩の読み方とかが少しずつわかってきて、面白さを感じるようになっています。
――今回の3曲、ブクガの幅をかなり表現しているのではないでしょうか?
和田 そうですね。私は“14days”は、ブクガの今までの曲の中で一番「絶望」だと思っているんですよ。“cloudy irony”という明るさがある曲から始まって“14days”で終わるこのシングルは、ブクガの上から下までを網羅しているのかもしれないです。今までで一番深いところまで沈んでいったような感覚もあります。
井上 高低差がすごいシングルということかも。耳キーンってなるね?
和田 うん(笑)。
――生きているとディープなところへ沈み込む瞬間もありますけど、青空が欲しくなるものじゃないですか。人生の中にある感情の幅と自然と重なり合う1枚なのかも。
コショージ ありがとうございます。ブクガは、こういう青空も見せるんです。
井上 青空が欲しくなったら“cloudy irony”ですね。
矢川 ぜひいろんな方々に聴いて頂きたいです。
和田 あんまり眩しいと目を傷めちゃいますから、“cloudy irony”くらいの青空が丁度良いんだと思います。