1stフルアルバム完成! メンバー全員インタビューで「め組」の正体に迫る
元さよなら、また今度ねのフロントマン、菅原達也(Vo/G)による新バンド・め組。昨年7月の結成から1年、いよいよ1stフルアルバムがリリースされた。『恵』(めぐみ)と題された(つまりある意味セルフタイトルの)全12曲入りアルバム。傑作である。さよ今をやっていたときから、菅原の書くメロディと、シュールさとファニーさとはっとするような鋭さが同居する歌詞はとんでもないものだったが、あれはやっぱり原石の輝きだったんだと改めて痛感する。それぞれのバックグラウンドをもって集まったバンドメンバーによって、その原石がキラッキラに磨き上げられた結果、それがこの『恵』である。ダイヤモンド級の名曲がごろごろ並んでいる。見た目もキャラもバラッバラなこの不思議なバンドはいったいどういうふうに成り立っているのか? 作品はもちろん、メンバーのパーソナリティにも迫ったメンバー全員インタビューをお届けする!
音楽やる同士は価値観が一緒じゃないといけないのかな?って思ってたんですけど、そうではないことに気づけた(菅原)
――菅原くんは、さよなら、また今度ねをストップさせて、新しいバンドをスタートさせたわけですが、め組というのはこういうバンドで、こういう音楽をつくりたいっていうイメージは最初からあったんですか?
菅原 そうですね。め組としては初めてのアルバムなんですけど、僕の……その、なんか偉そうなこと言うと、さよなら、また今度ねの最初から今までを含めたキャリアで言うと、もう3年か4年ぐらいバンドをやってるんですよね。だから個人的には、ちょっとここで集大成というか、ベストアルバムみたいなものを作りたくて。それを意識して作って、叶えられたと思っています。
――その「集大成」っていうのは、もうちょっと具体的に言うと、どういう意味合い?
菅原 そうですね……さよなら、また今度ねをやっていたときは、音楽理論とかはもちろん知らないし――まあ、今もわかってないんですけど(笑)、歌詞もメロディも構成も、もう全部めちゃくちゃだったんですよね。それがいいのか悪いのかっていう、その判断をいい意味でできるようになったのが今なんですよ。それがやっとわかって、自分でなんとなく整理っていうか片付けができたっていうか。メンバーも、そういう部分を整頓してくれて、ちゃんとラッピングしてリボンまで付けてくれるんですよね。それがうまくこのアルバムではできたし、このメンバーだからできたんだと思っています。
――逆に言うと、そういうことをちゃんとやりたいがためにこのメンバーを集めた、みたいなところもあるんでしょうか?
菅原 それはもう、大前提としてありますね。こんな、何やってたか知らない人たちと――。
――「何やってたか知らない」って(笑)。まあ確かに、経歴は本当にバラバラのようですけど。
菅原 そういう人たちと一緒にやれるのかな?って思ったんですけど……価値観が、もちろんみんな違うんですよ、圧倒的に違う。で、それが楽しいか楽しくないかと言ったら、圧倒的に楽しくて。音楽やる同士は価値観が一緒じゃないといけないのかな?って思ってたんですけど、そうではないことに気づけたんですよ。価値観が各々違うほうが絶対に楽しい、絶対。それをみんな、わりと楽しんでくれてるんじゃないんですかね?
大熊 諒(Dr) 楽しいですよ。
富山 京樹(G) 最初は、僕、一番年下ですし、不安はやっぱりありました。でも、入って最初に話してたときに、いろんなギタリストが来てた中で、こいつが一番いい、こいつとやりたいって言ってくれてたのが僕っていうのを聞いて、それに応えたいなっていうのは思いました。
――下山くんはもともと菅原くんとは幼なじみですけど、バンドに入ってくれっていう話になったときには、どんなふうに感じたんですか?
下山 拓也(B) いや、もう、誘ってくれてるなら、すごいやる気になっちゃうし、がんばんなきゃっていうのが一番最初に思ったことです。
菅原 LINEで誘ったんですよ、「バンドやんない?」って、ほんとになんか、「明日遊ばない?」みたいな感じで。即「OK!」みたいな感じだから、絶対そんなに考えてないです(笑)。
下山 期待に応えようっていう気持ちだけで、やる気だけはあります!って言って入りました。
――(笑)一方で出嶋さんはクラシックをずっとやっていたという、このバンドの中でも異色な経歴の持ち主で。
出嶋 早紀(Key) そうなんですよね。だからなんか、今の自分がちょっと不思議というか……今、やっとバンドをやってるんだっていう実感が湧いてきてますけど……今まではわりとひとりで弾くことが多かったので、こう、5人でアンサンブルをする難しさとか、出るとこは出て、引くとこは引いてみたいな、そういう駆け引きとかを、今はすごく楽しんでますね。
――そんな出嶋さんは、どうしてこのバンドに入ろうと思ったんですか?
出嶋 菅原くんの歌う姿の力強さだったり、内面の人間力みたいなものをすごくセッションをやっていくうちに感じて。それについていってみたいって思いましたね。
菅原 人間力? そんなこと言われたことないですけどね(笑)。
自分の立ち位置っていうのがハッキリした感じがするんですよね。このバンドやって、それがデカかったです(菅原)
――今の話を聞いてもますますそれぞれのキャラの違いに驚くんですけど、でも唯一、菅原達也の書く曲、それを一緒に作って鳴らすんだっていう、そこだけはすごく強固に結びついている感じがしますね。それがめ組のいちばんの面白さだと思うんです。
菅原 そうですね、目的がそれのみというか。価値観が違うので、馴れ合いにもならないし、すごく、なんか、冷たいこと言えば合理的だし、やりやすいです、明るいので、はい。
――うん。だからこのアルバムの12曲、めちゃくちゃわがままなんですよね。馴れ合いがないから。
菅原 ははは(笑)。なるほど、はいはい。
――なんていうのかな、バンドに無理難題を押し付けてる感じも、ちょっとある(笑)。
菅原 ああ、そうかもしれないですね。だってコミュニケーションそれしかないんですもん。
――そう、まさにそういう音楽におけるタフなコミュニケーションがこのアルバムには詰まってて、というか、それだけを作品化したみたいなアルバムで。そういう意味で、すごくバンドっぽいアルバムだなと思うんですよ。
菅原 でも、べつに俺もそんなに、こうしろああしろっていう指示はしていないし、すごく上手い人たちだし、出嶋さんの場合は……難しくしたんでしょ?
出嶋 ん?
菅原 フレーズとか、難しく。
出嶋 ああ、なんか自分の中で難しいことをしたい願望が強くて、こう、フレーズとかも、ちょっと速弾きスタイルになってしまったり……でもそういうのも、投げかけたら受け止めてくれるから、やっててすごい楽しいですね。
――だからそれもさ、言ってみたらケンカみたいなものじゃないですか。売られたケンカは買う、みたいな感じなんじゃない?
菅原 ああ、それはあるかもしれないですね、確かに。
出嶋 うん。
――そういう、本気のコミュニケーションにおいて音楽ができ上がってる感じがするんですよ。
菅原 ああ、なるほど、理解しました、そうですね。
――だって、“500マイルメートル”と“悪魔の証明”と“独りな武士”と“HEARTFUL”って、普通に考えたら、ひとつのバンドがやる音楽性としては――。
菅原 たしかに……変ですよね(笑)。
――広すぎるんですよ(笑)。だけど、その全部をやっぱやりたいわけだよね。このメンバーだとやれるっていうふうに思ったし、このメンバーにやらせようって思ったわけですよね。
菅原 はい。
――で、実際にできてしまったという。音楽を介して関係性が作られていって、それが深まっていっている、その最初の成果って感じですよね。
菅原 そうです。
――そういう部分も含めて、変な言い方だけど、初めてしっかりバンドやってるなあって感じなんじゃないですか? 菅原くんですら。
菅原 うん、今はします、スタジオで入ってるときが一番しますね、なんか。一番コミュニケーションしてるし。だから、一番今嫌いなものは宅録です。ひとりだし。
――でも、じゃあそうやって生まれている曲、とくに歌詞だけど、それがどういうものになっているかというと、より菅原達也という人のパーソナリティが浮き彫りになっている気もするんですが。“キキ”とか“脳内コンクール”とかはまさにそうだと思うんですけど、バンドだと実感することで、かえって自分の表現にも向き合えた、みたいなところもある?
菅原 そうですね、そういう部分に今までは気づかなかったので。要は、自分の立ち位置っていうのがハッキリした感じがするんですよね。このバンドやって、それがデカかったです。
――まさにそこだと思うんです。バンドという組織の中で、ひとりひとりがちゃんと役割を全うすることを求められていて、菅原達也もやっぱり自分の役割とやるべきことに向き合わざるを得なかったっていうことなのかな?って気がするんだけど。
菅原 うん……得なかったし、大好きなポップスを突き詰めるんだったらそれしかないっていう。そこには忠実でいたいんですよね。あとは、これはもう完全に僕の性格の話なんですけど……だらしないので、ちょっとぐらいならいいかな?っていうことをしちゃうんですよ、人間関係においても。でもこのバンドでは、それがちょっと許されないっていうか。なんていうんだろうな、こう、仲間なんだけど仲間じゃないっていうか、お互いライバル……って言っちゃったらベタなんですけど、そういう関係ではある気がします。それぐらいじゃないと僕はたぶん次に進めない。