
『ターミネーター』に出てくるスカイネットが人間の社会を支配してしまったりとか――あまりに極端な例だけど、若干そういうものにちょっと近づいているような、自分たちが
――モントリオールで「ここは居心地がいいぞ」と感じる感覚と、このアルバムに出てくる「何かを解放したい、新しいものを生み出したい」っていう感覚って、実はつながっているような気が僕はしていて。
「なるほど」
――さきほどおっしゃっていた通り、僕らにはどうも居場所があんまりないと。で、じゃあもっといい場所を作ろうじゃないかっていう宣言にも聞こえるんですよ。
「面白いですね、うん……『ATOM』っていうタイトルでアルバムを作るってなった時に、思ってたことがあって。僕、幼少期に90年代から80年代後半のSF映画を見て育ってきたんですけど、昔は週末の夜になるとテレビのロードショー枠でいろんな洋画をやってたじゃないですか。そこで当時、特に最新でもないSF映画――『ターミネーター』とか『ロボコップ』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は全盛になったからバカバカやってたし、『ブレードランナー』とか『エイリアン』シリーズもそうですし、ああいうのをどんどんテレビでやってて。で、幼少期に僕は母の影響で、渋谷のスクランブル交差点に当時あった東宝の映画館で、ゴジラシリーズとかの特撮フィルムだったり、CGが入る前の人力で頑張って作ったセットとかコマ撮りで再現しようとした映画を見てきて、そういうものが好きだったんですよね。だからSFのあの手作り感と、コンピューター感のザラついたミックスした感じがすごく引っかかるというか。で、だいたいああいう映画には、ゲートリヴァーブがバーンとか鳴っていて、サックスとかシンセサイザーが入っているとか、ダッサい音楽が毎回出てきて(笑)。ロックっていうものと出会った時は、ダサすぎてそういうものを取り入れようとも思わなかったですけど、だんだんアルバムを作ってくうちに、そういうサウンドが必要なんじゃないかって。なんか、誤魔化しきれないと(笑)」
――それは、自分のルーツにある音楽として向き合わなければならないっていうこと?
「っていうのもあるし、その居心地の悪さっていうことかな。そのSF映画の主人公たちは、だいたい第三次世界大戦的な核戦争が起きて、街が荒廃しちゃって穴ぐら生活をしてて、何かに怯えながらレジスタンスのように生きる、みたいな描写が多いじゃないですか。僕は将来そういうふうになると思ってたんですよ、小さかったから(笑)。で、今ふとああいうのが好きだった自分とか、監督たちが書きたかったことを思った時に、日本では誰もが携帯を持てて、何点何インチの画面の中で小さいコンピューターで常にインターネットとつながってコミュニケーションがとれてるっていう状態を、あぁ面白いなって思って。今自分がこうやって暮らして楽しいなって思ってる裏側で何が起きてるかが、ドットの粗い粒子の中からなんとなくわかっちゃうっていう。前まで知らなくてよかったからちゃらんぽらんにいられたかもしれないけど、そういう部分が常に目の端に見えちゃう感じとか。『ターミネーター』に出てくるスカイネットが人間の社会を支配してしまったりとか――あまりに極端な例だけど、若干そういうものにちょっと近づいているような、自分たちが。そうなった時に、2015年の東京、日本を舞台にSF映画を作るとしたらどういうサウンドになるんだろうなとか、勝手に想像したりしながら作ってたりもしてましたね」
――あの時代のああいうSF映画って、行きすぎた進歩主義に対する警告だったりテクノロジー至上主義に対するアンチテーゼとか文明批判が織り込まれてると思うんだけど、そういうところに共感する感じがあるんですか?
「でも、『ATOM』のアルバムで、そうやって『君たちはこうだからダメなんだ』とかそういうふうに否定するのはすごくイージーなことだと思っていて、そういうふうにはしたくなかったんですよね。コインの裏表じゃないですけど、そういう楽しいことの裏に、発展のない、悪いことにも使えるアイディアを人間は持ってるし、思いついちゃうっていう、そういう両方あるなと」
――このアルバムはまさに両方あると思いますよ。これは間違ってるんじゃないかっていう思いと、未来には希望があるんじゃないかっていう思いと、両方を行ったり来たりしているというか。
「そうかもしれないですね。タイトルもいろいろ考えてたんですけど、作ってる途中から『ATOM』っていうワードが浮かんできて。前回の『氷河期』は最初から最後まで氷河期っていうワードのもと、すごく統一された世界観になっていた気がしてたので、今回は一曲一曲が楽しめて、独立しているアルバムにしたいというのが最初のきっかけだったんですけど。でもそのバラバラな奴らがどうやったらひとつのものとしてパッケージされるのかなって考えてたら、『ATOM』というワードが出てきて。それは手塚治虫さんの影響ももちろんありますし、核とかコアとか、いろんなものになり得る名前であるし、エジプトの神様の名前でもある。あと、『ATOM』ってワードが昔の日本語の言葉にちょっと響きが似てると思って。『ヤマト』とか『ヌシ』とか『トカゲ』とか、中国語がちょっと入っていて漢字を取り入れる前の感じというか。いわゆる『日本語』って言われる前の日本人の昔から持ってる言葉って、片仮名で表されるじゃないですか。あの感覚って、今聞くと外国の言葉に聞こえたりすると思って。それで、『ATOM』っていうワードは、外国にアピールしようとする『日本人らしさ』って言われるものよりももっとコアな部分に近い気がしてて」
――“Metropolis”という曲もあったりするから、手塚治虫的なSF感っていうのがあるのかなと思ったんですけど。
「ああ、そうですね。藤子不二雄派と手塚治虫派に分かれると思うんですけど、僕、手塚治虫のほうがわりと好きだなあと思って。藤子さんのほうが人間ができてそうですけど(笑)、手塚さんは、めちゃめちゃそうでいいなっていう。人間らしさがあるなと思って」
後ろを振り返りながら音楽を作っているというよりは、今後5年間の世界がちょっと見え始めている感じとかが、どうしたら音楽としてなるかなあとかいうことを考えてた
――『ATOM』という単語には肯定的な響きと同時に、ちょっと皮肉っぽい響きとか、あるいは未来とかレトロな感じもあったりして。その相反する感覚が同居している感じというのは、このアルバムを決定づけていると思うんですね。でもそれが最終的に肯定的に響いてくるっていう。
「そうですね。ショッキングなワードだけフッと引き抜いて『ネガティヴだ』って言う人が多いんですけど、そう言ってもらえると」
――たとえば、“Safe House”も否定型だけで歌詞を書いていくわけじゃないですか。でも、これは何が言いたいのかっていうと、《外に出て遊ぼう》っていうことだったりするし。だから、いろんな世界の見方があるんだけど、それを乗り越えてちゃんと一歩先に行く意志みたいなものがあるなあと思って。
「ええ。僕らのちっちゃい時っていったら、99年はノストラダムスだとか2000年問題とか、そういう話がクラスでザラに起きてたりしてたから、自分はなんとなく大人になんないんじゃないか、みたいに思っていて。でも、僕はそんなこと起きないだろうって楽観視してたけど、形のないよくわからない恐怖みたいなものも同居していて。平和に給食を食べて、授業を受けて、天気いいから遊ぶ、みたいなことをやってると同時に世界が終わるんじゃないかって周りが言ってて。でも、じゃあ『どうせ終わるし』って開き直ることは、自分の中ではちょっと違うなって思っていて」
――このアルバムは、開放とか変わっていくというモチーフだったりとか、新しい何かを作るみたいなイメージが頻出してると思うんですけど、そういうのは、制作の時期に三船くんの中に何か感じることがあったりしたんですか?
「モントリオールの人たちは音楽に対してあんまり昔話をしないんですよね、過去の作品の話とか。もちろんリスペクトは持ってるんですけど、ちゃんと自分たちの音楽でその人たちを超えてやろうっていうスピリットを持ってるというか。その中で音楽をやることはすごく健康的だなと思ったし、そういう人たちとやるほうがしっくりきた。だから、さっき古い原体験のSF映画の話をしましたけど、後ろを振り返りながら音楽を作っているというよりは、今後5年間の世界がちょっと見え始めている感じとかが、どうしたら音楽としてなるかなあとかいうことを考えてたと思います」
――なるほどね。やっぱり自分の中の宇宙を広げていくだけじゃなくて、いろんな人とのコミュニケーションとかカンバセーションとか、関係性において音楽をやっていくことに対して今、喜びを感じているわけですよね。
「そうですね、少し魂が共鳴する瞬間があったというか。そういうことを密かに喜んでると思います。静かに(笑)」
――もっと踏み込んで言っちゃえば、社会性?(笑)。
「そう。友だちができた、みたいな(笑)」
――そうそう。だから、このアルバムができたというのは、ほんとに大きいんじゃないかなと思うんだけど。今、次にやりたいこととか、自分の中に生まれてきているんですか?
「今すごい音楽を作りたいっていう衝動が前よりワアッて強くて。で、音楽も作りたいし、やっぱり自分でスタジオを作って、日本でレコーディングがしたいってバンドが来た時に、じゃあうちでやろうよって言って、そういう人たちとうまく一緒に何かを生み出せる環境を、僕は東京に作れたらいいなと思ってまして。そういうことは常に腹の底で企んでるんですけど、いろんなアイディアがワーッて出てきています(笑)」
――自分たちで新しい街を作るとか、そういうイメージがどこかにあるのかもしれないですね。
「そうかもしれない。いろんな音楽が日本に入ってきたりとか、外国の誰も知らないインディーバンドがライヴをしに来るようになって、普通に音源が売られるようになった時に、初めて日本のロックバンドとか、日本語で歌うことがどういうことなのかっていうのは気づくかもしれないし。そういうことが起きたら楽しいなあとは勝手に思ってるんですけど(笑)。でも近い将来やるでしょうね。うん、やると思います(笑)」
ミュージックビデオ
リリース情報

『ATOM』
2015/10/21 on sale
■CD
PECF-1127 felicity cap-238
定価:¥2,300+税
■LP
PEJF-91011 felicity cap-240
定価:¥2,500+税
※CD/LP共にハイレゾ音源のダウンロードコード付き(24bit / 96kHz)
- 01. Safe House
- 02. 電気の花嫁 (Demian)
- 03. England
- 04. bIg HOPe
- 05. ショッピングモールの怪物(Shopping Mall Monster)
- 06. Metropolis
- 07. フランケンシュタイン(Frankenstein)
- 08. Glass Shower
- 09. X-MAS
- 10. ATOM
ライヴ情報
「ROTH BART BARON TOUR 2015-2016 『ATOM』」
- 2015年11月 8日(日)
- 代官山 UNIT 17:00 / 17:30
- 2015年11月19日(木)
- 高松 TOONICE 18:00 / 18:30
- 2015年11月20日(金)
- 木屋町 UrBANGUILD 19:00 / 19:30
- 2015年11月23日(月・祝)
- 広島 CLUB QUATTRO 17:00 / 18:00
- 2015年11月28日(土)
- 仙台 HELLO INDIE2015 14:30 / 15:00
- 2015年12月11日(金)
- 松本 Give me little more. 18:30 / 19:00
- 2015年12月12日(土)
- 富山フォルツァ総曲輪 18:30 / 19:00
- 2015年12月13日(日)
- 金沢 ART GUMMI 17:30 / 18:00
- 2015年12月23日(水・祝)
- 名古屋 RAD HALL 17:30 / 18:00
- 2015年12月24日(木)
- 鴨江アートセンター 18:30 / 19:00
- 2016年 1月 8日(金)
- 鹿児島SR hall 19:00 / 19:30
- 2016年 1月 9日(土)
- 宮崎 LIVE HOUSE ぱーく. 18:30 / 19:00
- 2016年 1月10日(日)
- 福岡 the Voodoo Lounge 17:30 / 18:00
- 2016年 1月11日(月・祝)
- 徳島 CROWBAR 17:30 / 18:00
- 2016年 1月17日(日)
- 大阪 CONPASS 17:30 / 18:00
- 2016年 1月23日(土)
- 札幌 PROVO 18:30 / 19:00
- 2016年 2月 5日(金)
- 仙台 retoro Back Page. 18:30 / 19:00
- 2016年 2月11日(木・祝)
- 熊谷 HEAVEN’S ROCK 熊谷VJ-1 18:30 / 19:00
提供:オフィス オーガスタ
企画・制作:RO69編集部