sumika 普遍的に愛される音楽へ――バンドの枠を越えた進化の両A面シングルを語る!

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片岡健太(Vo・G)の体調不良による療養に伴っての約7ヶ月間の活動休止を経て「ふっかつ」を遂げたsumika。彼らの復帰後初音源となる両A面シングル『Lovers/「伝言歌」』がリリースされる。まずはミュージカル調のアレンジが施された“Lovers”。これまで、リリースを重ねるたびに自由度を増してきた彼らだが、完全に「バンド」という枠をぶっちぎった1曲だ。対する“「伝言歌」”は、10年以上前に作られた1曲。一見対照的に思える2曲だが、“Lovers”で思い切り振り切ったことと、“「伝言歌」”を今再び歌うこととは、実は密接に関わっている。この2曲を今、揃って世に出すことの必然性について、全員に訊いた。

インタヴュー=塚原彩弓

俺が歌えるから必要なんじゃなくて、人間としてちゃんと信頼してくれてるんだなって思った

――復帰後初シングルということで、去年の活動休止中のことから振り返りたいんですが。率直に、当時の心境はどうでしたか?

片岡 原因が特定できなくて、治し方がわからないから、ライヴのキャンセルが続いていって。それでもメンバーがかけ続けてくれる言葉は変わらなくて、「声が戻らなくても、ギターだけになってもいいからバンドやろう」って。いろんな病院に行って、いろんな検査をして、わからないですねみたいな回答をもらうたびにダメージを負ってたんですけど、メンバーからかけられる言葉で回復して、また病院に行って傷ついてみたいな(笑)。でも、それがなかったら病院に行く気にすらなれなかっただろうなと思うので。

――うん。

片岡 僕がいなくてもお客さんに対してちゃんと誠意を見せたい、今のsumikaで、できることを提示したいってことで、「sumika roof session」として僕以外のメンバーで東名阪のワンマンをやってくれたりもしたし。

――3人はどうでしたか?

荒井智之(Dr) いやあ、てんやわんやでしたよ(笑)。もう何から考えていいのかわからなくなって。やっぱりバンド内、スタッフ内でもいろんな意見があって、僕は正直、ライヴは全部やらないほうがいいと思ってたんです。でも、メンバー3人で話してる時に隼ちゃん(黒田隼之介/G・Cho)が、「たとえ片岡さんがいなくてもsumikaの意志はここにあるから、お客さんにしっかり誠意を示したい」って言ってくれて。オガリン(小川貴之/Key・Cho)も、(ヴォーカルとして歌うのは)もちろん大変だけれどもチャレンジしてみたいって言ってくれたので。そこで僕はふたりにすごく背中を押されました。

小川 ワンマンまで2週間しかなくて。

――その間に、アレンジもしなきゃいけないし、歌の練習もしなきゃいけない。

荒井 バッタバタでしたね。

――そんな状況でも意志を示したほうがいいと思ったのはなぜでしょう?

黒田 片岡さんが元気になった時に、戻ってくるだけですぐまたできるようにしときたかった。スケジュールがとか、アレンジをやんなきゃなんないとかっていうよりも、片岡さんのほうが絶対大変だろうと思ってたんで。やれることはなんでもやりますよっていう気持ちでした。

小川 僕は加入して間もない時でしたけど、このバンドでちゃんと生きていくっていう覚悟は決めたうえで入ってるので、やることはやろうって思いもあって。冷静になったら、俺がヒョイッと出てきて歌うって、「お呼びでねえよ」みたいな空気が流れるんじゃないかっていうのがすごく怖かったんですけど、みんなで努力すればどうにかカヴァーできる自信があったので。それに、片岡さんなら絶対戻ってきてくれるっていう、保証はなかったですけど確信はあったし。

――話を聞いていると、お互いにすごく信頼し合ってますよね。

片岡 この休止期間中、「信じる」にも、「信用」と「信頼」っていう2種類があるんだなと思って。信用は、銀行みたいに条件つきで人を信じる行為。でも、何も見返りを求めずに信じる行為があって、それが信頼かなと。僕がメンバーとかスタッフに抱いてたのは、信用じゃなくて信頼だったし、メンバーがかけ続けてくれた言葉も、思い返してみたら全部信頼で。俺が歌えるから必要なんじゃなくて――もちろん1個の要素としてはあると思うんですけど、人間としてちゃんと信頼してくれてるんだなって思って。

――それこそ、まず戻ってきてくれる保証もないし。そういう状況で、声が出なくてもいいから一緒にやろうよって言えるのは、すごいことだと思いますね。

黒田 リアルにそういう話をしてたんですよ。

荒井 音楽ができなくなった時は、このメンバーで一緒に農業やろうぜって(笑)。

片岡 音楽がなくても、人間としてずっと一緒にいられる人たちなんだなっていうのを発見しました。この極限の状況でそれを言える人たちってすごいなって。

――だからバンドとしてはかなりのピンチだったけど、逆に4人の結束はすごく強まったんですね。お客さんも待ってくれてましたよね。東名阪の「roof session」も、まず、ちゃんとお客さんが来てくれていたし、私も東京公演を観たけど、それこそ「お呼びでねえよ感」なんて全然なくて、むしろ、お客さんがすごく応援してるっていうことが伝わるような、あったかい空間で。

荒井 ステージに上がる前はほんとに不安だったんです。でも、1本目の大阪でステージに出ていった時に、たぶんメンバーよりも、お客さんのほうが今の状況を正確にわかってくれていて。何も心配することはなかったんだなと思って。

黒田 逆に安心させてもらっちゃったんですよね。

片岡 そこも信頼なのかもしれないね。

――「俺たちはずっとここにいるからいつでもライヴに来てくれ」って、片岡さんがいつもMCで言っているし、聴く人の心の「住処」になりたいとも言ってますけど、それはお客さんとバンドの共同体だったというか。sumikaに何かあった時には、お客さんも支えてくれる。だからあそこは、sumikaが戻る場所でもあるんだなって感じたんですよね。

片岡 それってすごいことですよね。

素の自分たちで、頭のなかに鳴ってる音を100%表現するほうが、嘘がない。それが信頼できる音楽だと思った

――そして、無事復帰しまして、音源が出るんですが、初めに聴かせてもらった時に、これはもう振り切ったなと(笑)。

黒田 やりました、あはは。

――まず“Lovers”は、復帰後に書いた曲ですか?

片岡 そうですね。自分が愛するものとの関わり方みたいなものをテーマにして。自分の大好きな人の良さを知るためには、違う人を見るべきだと思うんですよ。この人と付き合ったら何が起こるのかな、でもやっぱり今の彼女がいいなと。ある種、心を浮気させる行為というか。それが生き方でも同じことで、自分がサラリーマンだったらとか、いろんな生き方を想像したうえで、それでもやっぱり今の生き方がいいなって思えるかどうか。浮気って書いちゃうと語感が悪いですけど、自分が大事にしたいものが大事だって知るうえで必要な行為だと思うんですよ。

――なるほど。

片岡 実はそれが、愛するものとの関わり方としては健全なんじゃないかなと。それが好きな人であっても、ものであっても、全部においていろんなものと比較して選ぶべきなんじゃないかなって、復帰してスタジオに入った時に思って。「やっぱここだな感」があったんですよね。アレンジに関しても、休養を経て、やっぱり自分ひとり、sumika4人だけでは何もできないんだなと思って。それこそお客さんにも一緒にsumikaを支えてもらってるし、スタッフにも支えてもらってるし。だからもう、自分たちだけじゃ何もできないっていうのを全開にしていいかなって思ったら、アレンジの振り幅がバーンって広がりました。

――歌詞だけパッと読むと《ねえ浮気して》ですからね(笑)。でも、それこそ“グライダースライダー”(『Vital apartment.』収録)も、可能性が100個あるなら、全部考えたうえでひとつを選ぶっていう歌でしたよね。今回は恋愛的なフォーマットに落とし込まれた歌詞ではあるけど、sumikaの信念はこういうことだっていう歌だと思いました。

片岡 そうですね。恋愛の歌ではないですね。

黒田 良かった、ちゃんと届いて。

――そしてアレンジ、これもすごい。歌なしのオケだけ聴いたら、完全にJ-POPですよね。

片岡 上質のジャパニーズポップスを作ろうっていうのが根底にあって。今回、アレンジがバン!って思いついたのは『塔の上のラプンツェル』を観終わって、すごいハッピーな気持ちになった時で。そっから家でキーボードでストリングスを入れて、これは行けるなみたいな。

――うん、ミュージカルっぽいんですよね。

片岡 そう、歌いながら踊り出しちゃうみたいな気持ちを表現できるようなアレンジにしたいなと思って。今の生き方が幸せだー!っていうのを表現するためには――そういう音が頭のなかで鳴ってるんだったら、そこは無視しちゃいけないなと思って、忠実に表現しました。今まで、ライヴで再現しなきゃいけないとか、自分たちのバンドの音で再現できる範囲内に留めておくべきなんだろうなみたいなものが頭のどこかにあって。それが今回は完全になくなったので。

――なんでこのタイミングで、ここまで振り切ろうと思えたんですか?

片岡 それもさっきの「信頼」につながってくるのかなって思うんですけど。お客さん含めて、この人たち、人間たちを愛してくれてるんだなっていうところを、僕らも信頼できたから、そこに対してフリーになれたというか。素の自分たちで、頭のなかに鳴ってる音を100%表現するほうが、嘘がないなと、それが信頼できる音楽だと思ったんですよ。

――ここまで派手にアレンジをあれこれ施すと実体がよくわからなくなっちゃうこともあると思うんですけど、この曲はそうなってない。メロディは何回か練り直したりしたんですか?

片岡 サビに向かっていく時の高揚感みたいなものは結構試行錯誤して。A、Bメロからサビにかけて1音半転調するんです。そこは苦労しましたね。やっぱり、メロがアレンジに負けないように、頭の中で鳴ってる音がファッションミュージック的にならないように。歌詞としても届けたいものがあるから、格闘した結果、1音半転調に落ち着いて。それでようやくあのアレンジに耐えうるメロディや歌詞にできたっていうのはあるかもしれないです。

――誰でもちゃんとメロディを歌えるものになっていると思います。

片岡 歌われてなんぼっていうのは常にあるので。歌のある音楽は歌われるべきっていう。そこは曲げないようにしたいなっていうのはもちろん芯にありつつ。

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