相思相愛対談&
濃厚フォトセッション
待ちに待ったコラボレーションだろう。アヴちゃん(女王蜂)と志磨遼平(ドレスコーズ)。美学と美学。生き様と生き様。才能と才能。ヒリヒリするような、だが強烈に惹かれ合うふたつの個体が織りなすあまりに美しいコラボレーション。その楽曲は“売旬”。女王蜂の最新作『奇麗』に収録されていた“売春”(ここでは男声、女声をアヴちゃんが歌い分けていた)がエレクトロ"デュエット"ナンバーとして生まれ変わった。アヴちゃんが女声、志磨が男声を歌うバージョンに加え、アヴちゃんが男声、女声を篠崎愛が歌うバージョンも発表されているが、ともにむちゃくちゃいい。艶めかしい絡みと一瞬即発のスリルが襲ってくる素晴らしい楽曲を、僕たちは2曲聴くことができる。
今回は、個人的にも一度どこかでお手合わせを!と願っていた対談ということで、アヴちゃんと志磨に登場してもらった。対話の面白さももちろん、あまりにナイスすぎた故に急遽作った濃厚フォトセッションにもやられてください。ちなみに、テーマはアヴちゃん曰く「ジゴロと女傑捜査官パート2」でございます。
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一番最初に女王蜂と会った時の衝撃はまあすごいもんで。ルックスは無国籍で、音楽もそうだけれども、アイデンティティがものすごい強烈にありそうで、どこにもないというか(志磨)
――ふたりはいつから?
アヴちゃん 馴れ初め? そんなこと訊いちゃうの?(笑)。
志磨 いつからですかねえ? 我々が関係を持ったのは。
アヴちゃん 初めてが2009年(の神戸VARIT.5周年企画イベント)で、たぶん、一方的なのだと2008年。あたしが(毛皮の)マリーズを観に行った時かな、やしちゃん(B)と。
志磨 いい話なんですよ。最初対バンした時は、女王蜂はスリーマンのオープニングアクトで。先にリハーサルが終わって、僕は外に出て神戸をぷらぷらしてたんだけど、毛皮のギターの西くん(越川和磨)が「すごいバンドがリハーサルしてるぞ」って言ってて。
アヴちゃん 恥ずかしいからヤだー! もうやめない?
――もうちょっと聞かせてよ(笑)。
アヴちゃん その時の志磨くんは、黒のカンフー服を着てポーズをキメてて。マリーズはみんなの羨望の眼差しの中で、ホームランしか打ってないというか。みんなが好きで、みんなが嫌い、みたいな。すごい素敵だった。
志磨 確かに照れる(笑)。アヴちゃんは一番最初に対バンした時、今そこで何かされてきましたってぐらいにボロッボロで!(笑)。
――ははははは!
志磨 Tシャツがもう、原形をとどめてない感じで。なんせもう、露出が今の比じゃないですよ。髪の色もね、緑とか、青とか、そんな感じで。前髪も短かったよね、あの時は。
アヴちゃん そう。今も顕著やと思うけど、当時は「バンドをやってない」って気持ちが強かったんだと思う。みんな誰でもお仕事にしたくてバンドをやる。でも、こっちとしたら当時は捌け口でしかなかったから。今はだいぶバランス取れてきたけど、タテ社会もヨコ社会も興味なくて。当時はバンドを続けることも望んでなかったし。素敵なものは素敵、ヤなものはもういっか、みたいな中で、マリーズはすごいかっこよくて素敵だったから。今日こんな洗練された対談企画を、あの頃ビリビリギャルだったあたしがやれてるなんてねえ? 人生わからないです。
志磨 神戸のシーン、みたいなのがなんかあるんよね。みんな、すごい独特の才能がある。他にもたくさんかっこいいバンドがいて。でもその中でも、一番最初に女王蜂と会った時の衝撃はまあすごいもんで。音楽性も、聴いたことがない音楽だったし。パンクなのか、ディスコなのか。
アヴちゃん そうね。ノールーツな女王だったと思うんだ。今もだけど。
志磨 で、ルックスは無国籍。でも音楽もそうだけれども、アイデンティティがものすごい強烈にありそうで、どこにもないというか、点在してるというか。「音楽をやりたい!」「バンドでやっていく!」みたいなアイデンティティもないけれど、他のバンドよりはありすぎるぐらいに強烈で。
アヴちゃん そうなの。不思議なんだよね。バンドをやった時の無敵感が忘れられなくて。それと、マリーズも、ドレスコーズも、志磨くんもそうやと思うんだけど、女の子ってすごく浮気な生き物だから、自分が欲しいと言いつつも自分は欲しくないというか。当時の志磨くんの羨望の矢の受け方っていうのは、誰もがやりたいど真ん中を折衷して、そこに自分の色も特に求めずに、ストレートにパーン!って行ったような気がして。それに男の子たち全員が羨望、「泣きましたあ!」「好きっす!」みたいになった瞬間って、正反対というか。すごいなあ、ああ、かっこいいなあって。当時、正反対が認められた、そういうバンドってあんまりいなかった。一筋縄でいかないとかよく言われるけど、そういうバンドってそういかそうと思ってないんだと思うな。やっぱり、暴力的なバンドだったしね。
志磨 関西の土壌もあるかねえ。理解されることを拒むよね。
アヴちゃん 対バンっていうのがほんとに対決みたいだから。そこが違うんだよね。
志磨 うん、そうそう。お客さんとか、いろんなものから理解されるのを避けるように、わざと全然関係ない行動したり、自分を理解させないために攪乱するというか。わざと、多面体や!ってやるところは似てる気がする。
アヴちゃん かもしれない。めんどくさいとこまでわかってほしいというか。ちょっとめんどくさくないとイヤ、みたいな人は多かったかも。でも女王蜂はすごいストレートやったから。「めんどくさいものはイヤ。かっこいいものが好き」みたいな。
手段を厭わないんだよね。音が鳴った瞬間、自分にスポットライトが当たった瞬間に、御法度のようなことをしても、その場の空気とパルスがぴたっと合えばホームランになっちゃうんだよね。それはすごく、志磨くんと似てると思う(アヴちゃん)
――じゃあわりと密に会うようになったのは、この1、2年の話なの?
アヴちゃん すごく不思議なお付き合いなのかもしれない。「あたし次これやろうと思うねん」ってデモを聴いてもらうとか。この前も喫茶店で話したことを実行したしね。
志磨 そうそうそう。音楽だけじゃなくて、全体のそういうコンセプトとかね、撮影一個にしてもね。そこも近いかな。
アヴちゃん そう!
志磨 全部にストーリーを持たせるっていう。アルバムもそうだし。
アヴちゃん 文章とかもね。
志磨 うん。たぶんアヴちゃんも僕も、アルバムを単発でボンって作るんじゃなくて。ずっとストーリーがある中で、要素を点として置いていって、それがちゃんと線でつながってるっていう感じはすごく似てるから。会ってそういう話をするっていうことも、他の人とできることじゃないよね。次こんな恰好して、こういうコンセプトで、曲はこうで、ライヴはこうやねん、みたいな。
アヴちゃん そう。「わかる! それってこういうこと?」。
志磨 「完璧やん!」。
アヴちゃん 「わかるぅ!」みたいな。そういうことなんだよね。たぶん遊ぶっていうことも、お酒をいっぱい呑んだ、遊んだ、焼肉食べたとか、先輩におごってもらった、じゃないんだよね。
――ふたりとも、「わかってほしい」の度合いがものすごく大きいし、欲張りだよね(笑)。「このポイントをわかってほしい」じゃなくて、「これ全部わかってほしい!」っていう。
志磨 そうそうそうそう。情報量はとにかく多い、我々は。音楽、ミュージシャンとかバンドマンっていう純粋なものに、僕はすごい憧れはあるけれども。でも、自分をぶつけるアウトプットのやり方っていうのは、音楽だけだと我慢できなくて。もう、どんな手を使ってでもとにかく燃焼したい、爆発したいっていう。だから、結果的にすごく多面的になるし、情報量はものすごい過剰になるし。それをすべて理解できる人がいるとは思わないけれども、それは諦めてるというよりは、どうでもよくって。
アヴちゃん 手段を厭わないんだよね。表現することに対しての恐ろしさとか、どうしようもなさとか。音が鳴った瞬間、自分にスポットライトが当たった瞬間に、御法度のようなことをしても、その場の空気とパルスがぴたっと合えば、なんていうか……ホームランになっちゃうんだよね。あたしは、それはすごく志磨くんと似てると思う。
志磨 サービス精神っていうのもそうで。普通に生きてて、自分がその場で自分らしくいることが許されないと思っていて。だから、サービスしないとこの空間に自分はいれないって思ってた。たとえば僕は、アルバイトも全然できなかったし。僅かなお金で人に迷惑をかけながら(笑)、なんとか食いつないで。だから、たまにライヴの予定があると、お客さんにそこで何か伝えようなんて思うはずもなくて。そこだけやっと、自分がサービスをしなくていいっていう、逆に。ステージやと、もの壊しても褒められたりもするし(笑)。それはあとあと反省したんですけど。でも最初の頃は、全部の価値観が反転する場所だったから。
アヴちゃん そうなの。一番正しく時間が流れる場所なので。
志磨 人に迷惑をかければかけるほど喜ばれて(笑)。ライヴなんか途中で帰ったって、「帰ったぁ!」って喜ばれるし。自分がステージに立ってる間だけは、やっと……自分が今、この現世を生きていい理由がかろうじてそこにはあって。で、気づくと、今ではそれのほうが日常になって。もう、楽ちんに生きられるようになって。
――志磨くんの活動を見ていて、僕はこう思うんですよ。この人にとってバンドでいることというのは、もはやひとりでいることなんだろうなって。自分を相対化する何か、あるいは相対化されても残る自分を求める作業をバンドと言うなら、もはやひとりでいる状態でも「バンド」は成立するよね。
アヴちゃん その話やと、女王蜂の現場で鉄則の話があって。これ、どのサポートの人を入れた時でも起こることやけど、最っ高に女王蜂がヤバいライヴというか、自分たちでも「完全入った!」っていう時って、メンバー全員で終わったあとに話すのが、「もうひとりおったよね」「その子が女王蜂やな」っていう。だから、まさに人を作るっていうか。
志磨 それはすごい、音楽やってる人やとわかる感覚やね。
アヴちゃん その人が召喚された時の時間ってすごいし、ほんとにお客さんが張り詰めて集中して、自分の歌の世界に入った時って、ひとりひとりに糸が見えるというか。それをふわぁんってたなびかせて感動を生むんだなあ、とか。そのロマンティシズムというか、その正体をあたしは死ぬまでに突き止めたいなというふうに思ってて。で、志磨くんも見たことがあるって今わかったから、ああひとりじゃないんだと思って、嬉しかったです!
――ははははは。
志磨 全部をね、破壊していくんですよ。僕のことも踏みつぶしていく巨人。お客さんも。そいつが通ったあとはもう、木一本生えないって感じ。そいつに全員やられるっていう。
アヴちゃん 志磨くんって、焼け野が原っぽいよね。焼け野が原にしてく人やと思う。
志磨 ああ。でも、そういうの好きやけどね。
アヴちゃん やから羨望がすごい集まってんと思う。みんなが好きって言ってるものを焼け野が原にしていくから、かっこいいよね。踏みにじられた気がする人もいるけど、でも結局全部、その人が獲得していくというか、その人の血肉になってるから、憧れてもしまうし。