アニソンには、自由で尖った精神でやってる印象を僕は受けたんです
──“By Your Side”を作っていく段階で、縛りのようなものにもがいていた部分もあったんですか?
「けっこう自分の中で『スタンダードなものが好き』っていうところがあって、曲を作っていても『これはストレートにこのままいったほうが気持ちいいな』とか『混ざると気持ち悪くなっちゃうかも』って思ったりすることがあるんですよ」
──そこが面白いですよね。いろんな音楽が好きでありながら、そこを無闇に混ぜるのは躊躇してしまうっていう(笑)。
「そうなんです。そこはためらうくせに、音楽はなんでも好きで聴いてるから、作り手としての自分と聴き手としての自分のギャップみたいなものがあったりするんですけど、それを取っ払って──。まあ、完全に取っ払ったわけではないんですけど、そのバランスを自分はもうちょっとうまく持ちながら、これからはやっていけそうな気がしています」
──『BY YOUR SIDE EP』はHIROSHIさんがひとつ殻を破って出来上がった、「成熟」という言葉がふさわしい作品になりました。一方でFIVE NEW OLDにはロックサウンドで聴かせる魅力的な楽曲もあるわけで。これからどんな方向性に向かうのか、作品ごとに楽しみだったりもします。
「ロックサウンドの楽曲を今後はもうやらないってことは全然なくて、ジーザス&メリー・チェインとかキュアーとか、あのあたりの歪んでて、きらびやかな曲も好きだし、シューゲイザーも好きなので、そういう意味ではまた歪んだ音に帰ってくることもあるだろうし。今はトム・ミッシュとかを自分のモードで聴いてたりするんですけど」
──ほんとに多様な音楽を聴いてますよね。HIROSHIさんのその良い意味での雑食性って、どうやって培われたんですか?
「幼い頃、うちはけっこうローテクな家で、ネット環境も整ってなかったし、僕はオフラインの環境で音楽を聴きあさっていたんです。だから知識的に検索して何か情報を得るっていう経験が少なかったんですよね。例えばCDを1枚、家にあるものをぱっと聴いた時に、これがロックなのかソウルなのかっていう判別は自分でもつかないし、誰も教えてくれないし、よくわからなかったんです。だからデフ・レパードを聴いて『メタルだ!』って思ったし、ブラックミュージックにしても、聴いてみてこれがヒップホップかそうじゃないかっていうのはさすがにわかるけど、じゃあR&Bとファンクの違いって何だと言われたら全然わかってない──そういう状況で音楽に触れていたから、逆にいろんな音楽を聴けたのかなって思います。自分の中でカテゴライズしてないから」
──それで今でもジャンルレスに音楽を聴いていて、実際、FIVE NEW OLDのサウンドにも、それが反映されるという。
「ひとつ、雑食じゃなかったところがあるとしたら、家にはすごく洋楽のCDが多かったので、日本の歌謡曲やJ-POPに触れる機会があまりなかったっていうのはありますね。聴く機会がなかったからなのか、自分の中にすっと入ってこない部分があったんです。最近のほうがよく聴くようになりました。高校くらいから、友達が『アニソンはいいよ』って言うから、なぜかアニソンをよく聴くようになって」
──洋楽をずっと聴いていて、いきなりアニソンのように情報量の多い楽曲に触れると、音楽に対して逆にカルチャーショックのようなものを感じませんでしたか?
「最初に思ったのは、アニソンはかっこつけてないなっていうことですね。あくまでも『萌え』というものを大事にしていて、それが伝わればいいという潔さがあって、その範疇の中であれば何をしてもいいという、ある種、自由で尖った精神でやってるという印象を僕は受けたんです。それが面白くて聴いていたのかもしれない。振り切ったものが好きっていうのもあると思いますけど」
まだまだ欲求不満です。毎回出し切ってはいるけど、それでもまだ満たされない
──ところで、今作はEPでのリリースで、次はそろそろフルアルバムにも期待してしまうんですが、次回作については、すでに何か考えていたりしますか?
「曲はほんとにいろいろあって、まだラフスケッチばかりですけど、わくわくするものを作りたいなと思っています。今は自分でも自分が作るものにわくわくしている感覚があるんですよ。インストの曲とか、アンビエントもやりたいし、アルバムならインタールードとかも入れられるなあとか、自分のやりたい音をどんどん表現したいですね。乾いた音でアコースティック1本の曲とか、ラップとか、とにかくやりたいことはいろいろあって(笑)」
──まだまだやれていないことがいっぱいあるんですね。
「全然出しきれてなくて、そういう意味ではまだまだ欲求不満です。常に不満は抱えているんだと思います。毎回出し切ってはいるけど、それでもまだ満たされないから、満たされようとしてまた作るみたいなところがありますね。それがエネルギーだったりもします」
──今作がメジャーデビューということで、これから名前を知る人も増えてくると思いますが、FIVE NEW OLDとして、今後どういうバンドになっていきたいですか?
「最近すごく思うのは、遊べるだけこのバンドで遊びたいなっていうこと。最初に言った『これが仕事になるんだな』っていう言葉と矛盾するかもしれないですけど、より多くの人に『FIVE NEW OLDの遊びは楽しい』ってことが伝わればいいなって。自分たちが作るカルチャーに触れて楽しんでもらえたらいいなと思います」
──カルチャーというのは、リスナーに対して、もっとこんな音楽がある、もっとこんな音楽の楽しみ方があるよっていうような?
「そうですね。個々が自由であっていいっていうか。自由でいることにもっと安心できるような空間というか、そういう空気作りができたらいいなと思っています」
──逆に言えば、今はそういう自由を感じられていないという思いが強いですか?
「そうですね。徐々にカウンターカルチャー的にそういう音楽が生まれてきているとは思うんですけど、もっともっと多くの人にそれが広まればいいなと思っています。例えば、ライブやフェスで4つ打ちの曲でみんなで同じところで手を上げて、一緒に踊るっていうのもすごく楽しいとは思うんですけど、それ以外は楽しくないみたいになると、それはすごく悲しいなあと思って。もっと多様に、もっと個々の楽しみ方を持っていることに誇りを持てるような空気感が生まれたらいいのになって思います」
──もっと、いろんな楽しみ方があっていいと。“By Your Side”なんて、まさにそれを表したような曲だなって思います。いろんな音楽の要素が詰まっていて、みんなが一緒に歌ってもいいし、ただ体を揺らしてるだけでも気持ちいいし。
「個々の自由の集まりが、最終的にひとつになる感覚っていうか。みんなバラバラなようでいて、ひとつにまとまってるっていうのがいいなと思います。なんて言うんだろうな……二元論なんだけど一元論みたいな、うまく言えないけど、個がそれぞれに成立しているから、集合した時にまた1個の強い個になるっていう感覚──そういう空気感を作り出せたらなと思います」