今作まで来て思ったのが、大人になったなってことで。昔は絶対できなかったことが普通にできてる(高松)
——なるほど。じゃあここから、新しい作品になってるという話に移ります。改めて高松さん、どういうことでしょうか?
高松 今作まで来て思ったのが、大人になったなってことで。いろんな楽器を使ったり、いろんなリズムパターンがあったり、昔は絶対できなかったことが普通にできてる。そういう意味でもまだやることがたくさんあるんだなって、まさに感じてる最中ですね。
小林 普段使わないベースを使ったりね。
高松 うん、フレットレスベースを使ったんですよ。
——なぜ使ったんですか?
高松 なぜだろうね(笑)。
小林 やっぱりここからがドです、ここからがド♯ですというのがないから。
高松 ああ、つなぎ目がないよね。
小林 そう、その間の情緒ですよね。“みんな急いでいる”で使いましたけど、あの曲では環境音を、水の音や椅子が軋む音をキーが合うように録っていて。そういう音を音楽として用いる時に、ピアノなら「白鍵と黒鍵の間に無限の音がある」と灰野敬二さんが言ったように、フレットレスベースは音色のふくよかさも含めて、ものすごく情報がありますよね。音そのものの可能性を一番追求した“みんな急いでいる”において、それがすごく合うと、肌感覚として思ったんでしょうね。
——平均律では表現できない周波数のきらめきですね。
小林 ある種の雑味ですよね。あとはサウンドのテクスチャー、つまり音がどう重なり、どんな奥行きがあるのかという点をすごく意識しました。バイノーラルレコーディングもしたんですよ。音が移動する必然性があったり、位相として単純に左右ではなく、前後、上下の発想を加えたり。これまであまりチャレンジしていなかった、音そのもののデザインの仕方については、よくできたかなと思います。
——それも更新された部分ですけど、本質は変わらない気がしますけどね。小林さんはずっと「体験としての音」ということを言ってきたでしょ。さっきのシューゲイザーバンドとなぜか呼ばれるってのも、空気の振動としての轟音を出してるだけであって。周波数の情緒しかり、音をどう感じるかというポイントを突き詰めてる。
小林 確かにそうですね。
——ちょっと個性の話に戻りたいんですけれど、今回結果的に浮かび上がるものは、日本人なりのものだと言える気がするんですね。ピッチにおける情緒もそうだし、“みんな急いでいる”で言えば、スリーコードを軸とし、そのうちのひとつをどれだけエモーショナルにできるかってことをやってる。つまり情緒の豊かさが、日本人のセンチメンタリズムにすごく通じるなあと。
小林 ああ、日本人はウェットですからね。
——そう、あと“TODAY”の歌詞も、今日が永遠に続けばいいなあという祈りのような感情が綴られてますけど、それは永遠に続かないことが前提になっていて。つまり終わりがあるからこその儚さですよね。そこが「もののあはれ」というか、すごく日本人らしいなって。
小林 そういうものに仕上がっているという特徴が、客観的に見て系統立てられるのであれば、そうなんだろうなと思います。言ってもらった通り、アイデンティティとは滲み出るものなんですよね。だから自分としては普通に、自然にやっただけです。でも自然にやっていても立ち上がってきてしまう個性について、今のようにどんどん人から言われるようになったらいいなと思います。
——高松さんとしてはどうです?
小林 そこはこだわってないもんね?
高松 全然こだわってない。
小林 高松くんはこれだけL’Arc~en~Cielっぽいフレーズを弾けるのに、「L'Arc~en~Cielっぽい」と言われてもあんまりピンと来てないですし(笑)。
高松 ははははは!
小林 逆にtetsuya(L’Arc~en~Ciel/B)さんのベースを聴いて、僕らはすごい高松っぽいとさえ思うのに(笑)。今となっては高松らしさみたいなものが、tetsuyaさんから離れたところもあるけどね。
高松 そうだね、親離れした(笑)。
小林 そういうものなんですよね。
今見えているこの瞬間に精一杯向き合うぞ、感じていることを無化しないようにしよう、そういう意識ですかね(小林)
——では最後にお訊きします。『TODAY』を作り終えた今、どんな未来が見えていますか?
小林 なんだろうな……『Hallelujah』の時は、よりよい未来を意識することで今日の手の動かし方が変わる、だからよりよい未来へ行くと信じようというテーマがありましたけど、今作はむしろ、今目の前にあること、今自分が感じていることに精一杯向き合う気持ちのほうが強いです。なぜなら1週間前は今この瞬間のことなんて見えていなかったわけですから。だから今見えているこの瞬間に精一杯向き合うぞ、感じていることを無化しないようにしよう、そういう意識ですかね。10代の頃に感じていた刹那的なものとは全然違いますけど、未来や過去というのは結構朧げですね。過去はもう存在していないし、未来はまだ存在していない。そういう意味では、今を蔑ろにする人は過去を語るべきではないし、未来を生きる準備ができていない……本当に林修さんはいいこと言うよなと思います(笑)。
高松 (笑)。うーん、願望はありますけどね。
小林 目標みたいなものはあるよね。
高松 うん、こうなってればいいなあという願望はあるんですけど、って感じですね。
小林 願望とか欲望に忠実な作品ですからね、『TODAY』という作品は。
——わかりました。何か言い残したことはないですか?
小林 ある? (L’Arc~en~Cielの)トリビュート盤に呼ばれなかったことは根に持ってるよね?(笑)。
高松 それは別に(笑)。
小林 でも自分たちの作品にできたことのほうが重要か。
高松 そうだね。人の土俵というよりは、自分たちの土俵で“Cradle”をカバーできたことが、すごくうれしかったです。